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私達は、目的のバーヘーゲンの森へと辿り着いた。
ここに『一角バニー』が生息していることは予め知っていた。だから遠からず近からず、丁度よい距離にあるこのバーヘーゲンの森を目的地に設定していたのだ。
けれども、結論から言えばその目測は誤りだったらしい。
全く私にとって大した特訓にならないまま、目的の『一角バニー』がぴょこぴょこと姿を現してしまったのだ。
「ノイ! いたぞ、あいつだろ!?」
「あ、うん。じゃあ、<捕縛>」
私が捕獲魔法を唱えると、杖の先から光の鎖が飛び出して、逃げようとしていた一角ウサギの体を締め上げた。
「ナイス! よっし、これで依頼達成だな!」
「……うん」
達成したけど、達成してない。
ついつい本気の捕縛魔法を唱えてしまった。もっとちまちまと時間のかかるやつで、時間を稼いでも良かったのかな。
ていうかこの一角ウサギ、どうしよう。
もふもふの体と垂れた耳は可愛いけれど、眉間から生えた槍みたいな角は鋭利で危険だ。ペットにするのは難しいかも知れない。誰かそういうの好きな人に買い取ってもらおう。
「ノイ」
「え? なに」
「いや、なんか今日は平和でさ、楽しかったな」
「……うん。そうだね」
今。
絶対になんか、良い雰囲気だった。
私が勇気を出せば、何か決定的なことを言っても良いような空気感だった。
でも無理だった。ローゼンの顔を見てしまったら。あの笑顔を見てしまったら、私は自分の感情を出すことが、出来なくなってしまう。
私が一角ウサギにそうしたように、体が動かなくなってしまうのだ。
今日の特訓、成果はあったのだろうか。私個人的には、嬉しい言葉を聞けたから満足ではあるけれど。
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