コールドレイン

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俺の名前は渡辺 南(わたなべ みなみ)、俺には幼馴染の男がいる。 その男の名前は山田 悠斗(やまだゆうと)、小学生の頃に一緒のクラスになってよくグラウンドで遊んでいたことをキッカケによくお互いの家に遊びに行ったりしていたのだが、悠斗を男として意識し始めたのは中学2年生の頃だった。 その頃の悠斗は顔も整い始め高身長でありながら生徒会にも所属しており女子の注目の的だった、そんなとき悠斗が女子に触れられているのを見るだけで情けないことにその女子を敵視していたし正直妬いていた。 独占欲が湧き始めていたのもあるが、悠斗が好きな人にだけ見せる顔ってどんなものなんだろう…イケメンだし家庭的だし、彼女ぐらい簡単にできるんだろうけど… いつも俺のクラスばっか遊びに来るから友達いないのかよっとかふざけて言うと その度に「南をほっとくと何食ってるか分かんないからな、ほら弁当作ってきてやったから一緒に食べようぜ!」なんて言って一緒に食事をすることが日常的だし、朝はいつも一緒に登校するが、そのときに弁当を渡して来たりもするしなんならお菓子も作れてしまうようで、手作りクッキーを渡されたことも多々あった。 嬉しい半面、そういうときはクラスの女の子とかにも渡すのかな、って勝手に凹んで昼休みにお菓子のことを聞いてみたら 「え、作ったの南だけだよ」 微笑みながらそう言われて、一気に胸が熱くなったのをよく覚えている。 バレンタインに「あなたは特別な存在・恋人に贈るもの」という意味のあるマカロンと一緒に「あなたが好き・ あなたと長く一緒にいたい」という意味を持つ「キャンディー」を渡したが、やはり鈍感な悠斗には全く気付かれなくて大事に食うよ、と言われただけで特になんの進展もなかった。 まあ、こんなの遠回しすぎるし当たり前かとも思ったけど そんな学生時代から7年も無謀な片思いをしているものの、もちろん気持ちを伝えたことなんて一度もない。 妄想で何百回何万回とデートをしたけど、それを現実にするなんて、ずっと隣にいたただの幼馴染の男に好きなんて言われても、困るだけだよな。 そう思うと、社会人になった今でも時間を作って会うようにしていたから疎遠にならずに済み、隣で笑っていることしかできなかったけど ある休日に一緒にカフェに言ったときだ 〝付き合ってる彼女がいる〟と言われた瞬間、もう終わりだと思った。音を立てて何かが壊れていくようだった。 もちろん彼女ができたって優しい悠斗のことだから普通に遊んでくれはすると思う、悠斗が選んだ人ならきっと大丈夫だ……そう頭では思っていても、本音を言えば〝もう意識してもらうことすらできないのか?〟という思考が真っ先に頭に浮かんで、もう希望が無い現実を受け入れられなくて、悠斗はなにかブツブツ言っていたけど、まるで頭に入ってこない。 悠斗の隣にいるのが、俺じゃなく彼女になってしまう 俺以外に料理とか作ったりするのか 俺以外の人と付き合って、結婚したりするのか キスしたり、デートしたり、その先とかも他の人とするのか、と思うと気が気じゃなかった。 だから強硬手段に出たんだ 俺たちはカフェを出ると俺の家で学生のときみたいに遊ばない?と誘うと笑顔で頷いてくれた。チャンスだと思った、だからゲームをする体で自分の部屋に連れ込むと、呑気な顔して「ゲームなんて何年ぶりだろうなぁ…」という悠斗の隙を狙って 壁に追いやると両手を片手で掴んで頭の上にやり、完全に身動きできない状態にした。 「…ちょ、なに…顔怖いぞ?」 そりゃ驚くだろうな、幼馴染だし、ふざけてるとも思われる。だから、教えたかった。 言葉よりも手っ取り早い方法で、俺という一人の人間を見て欲しくて、お前のことを幼馴染としてではなく恋愛感情として好いている男が目の前にいるということを知って欲しくて、ねっとりと唇を押し付けた。 一度唇を離して〝ごめん〟 俺はその一言口にすると再び唇を近づけて貪るような口付けをした。初めてだったから、ちょっと歯と歯がたっちゃって痛かったけどそんなのどうでもいいくらい必死になっていた。 嫌われるかもしれないという気持ちもあったが、そんなことを考えてる暇なんてないくらいに心がぐちゃぐちゃになり始めていたのだ。 そんな俺に抵抗するわけでもなく、悠斗は戸惑った目で見てきてたけど、唇を離すとこちらを見つめて酸素を求めて息を整えながら、南…どうして、こんな…とだけ ああ、そうだよな、幼馴染でしかない男に無理やりキスされるとか普通にキモいし彼女いるっつってんのに引き下がらないで無理矢理とかすっげえかっこ悪い、分かってはいる、ましてや同性だしさ。 ……でも、それでもそばに居たかった。だから、悠斗の存在を消すことにした────。 交際していると言っていた女にも親戚にも親にも同僚にも、誰にもバレないように悠斗を自分の家に閉じ込めた。 会社の連絡先を消して失踪処理扱いになるようにし、彼女の連絡先もブロックして消すように促し それから使っていない部屋のベッドに移動させて両手首を縛ってベッドに括りつけた。 「南、おかしいっ…て、どうしたんだよ…?なんで、こんなことするんだ…?」 なんて言いながら悠斗は酷く脅えていたけど、これでもまだ俺のことを心配するような瞳で俺を見つめていた。 「悠斗には、俺だけを見ていて欲しいんだ…」 「俺、悠斗のこと中学の頃から好きなんだ…っ」 ついそんな本音が口に出た、こうもしないと俺は好きな人に気持ちを伝えられないのかと情けなくなったが、それでも尚、悠斗はピンと来ないような表情だ。 もう隠す必要も無いか、と思うと次々とずっと心に留めていた想いが言葉になって溢れ出した。 「お前が手作りクッキー作ってくれんの、俺だけってのが特別扱いされてるみたいで嬉しかったし、弁当作って持ってきてくれたり、いつもお前の隣が俺なのが嬉しかったし彼女なんて作らないで俺と付き合ってくれたら最高に幸せなのに…とか、でもバレンタインに恋人にしか贈らない特別なものを渡しても鈍感だから気づいてくれないしさ、気持ちを伝えることすらできなかった」 口は止まることを知らなくて、そんな俺を静止させたのは悠斗の言葉だった。 「冗談だろ…?だって俺たち、幼馴染だし男同士で───勘違いって可能性も…ほら、先生に恋してる女の子っているじゃん、それみたいな…」 その言葉にムカついて、気付いたら支配するように幾度も接吻で言葉を遮った後に、悠斗の肩を強く掴んで言う。 「なんだよそれ、そんなんじゃねぇよ……ざけんな…っ、俺は本気でお前に恋してんだ、ずっと隣で見てきたんだ、お前の一言で一瞬で幸せにもなるし不幸になるときもあるし、お前に恋心抱いたときからずっと…死ぬほど愛してるんだ」 …数日後、最初こそ抵抗していたけどそのうち悠斗は俺を受け入れるようになった 後悔なんて微塵も感じていない、これが俺の愛のカタチだし、どうしても悠斗を独り占めしたい、ただその一心だったんだ。 それから数週間後─────… 軟禁状態の悠斗のいる部屋に足を運ぶとベッドの上で正座をしている悠斗がいるから可愛いななんて思ったりしながら近づくと 「南…やっと帰ってきてくれたんだな…」 涙目の悠斗は赤ん坊みたいに俺に縋ってきて、完璧に、俺の計画通りに進んでいた。 俺が悠斗を消した理由はただひとつ 愛する人を手に入れたいなら、家に閉じ込めて、地位も名誉も人間性も奪って、自分無しでは生きられないと思わすように支配してしまえば、外にも出ようとしないし俺以外を頼ったりしなければ愛せなくなる状況を作り上げればいい。 だから、俺は悠斗を軟禁していたが、それは次第に監禁に変わっていった そのせいか悠斗はもう俺がいないと生きていけないようになっていたし もう俺の悠斗になったんだ……そう思うと嬉しくてニヤけてしまうのを抑えきれないままベッドに座ると、 悠斗が抱きしめてきてそのまま俺に馬乗りになり必死に押し倒してくるからそのままベッドになだれ込むと再度接吻をした。 何度も角度を変えながら唇を貪ると次第に甘い吐息を漏らすようになるので唇を離した瞬間すかさず悠斗の首に舌を這わせて舐めると、悠斗はよがり声を出して身体をビクつかせた でも、俺が舌を這わしているそこには一生消えない傷痕がある、悠斗が俺のものになったという証だ。 そんな日常に恍惚としていると、悠斗はいつもの甘い囁きではなく、すごく悲しそうな声でポツリと呟いた 「俺はもう南なしじゃ生きられない、だから何処にも行かないでくれるよね……?」 俺は悠斗を安心させるように微笑んで首の傷を撫でながら答えた 「当たり前だよ、悠斗も…俺から離れないでね」 〝離れないで〟なんて言わなくても悠斗が俺から離れていくことなんて永遠にない、何かを思い出したり外に出ようとするなら、また心も体も支配すればいい。 まあ、そんなことは起きないか、悠斗の心は俺が殺して、俺のことしか考えられないように愛して生かしているのだから。 だからこれからも永遠に、誰にも邪魔されない2人きりの世界で生きていこうな────
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