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ノートの記述はそこで終わっていた。
私はため息を吐きノートを閉じた。読み終えた後もこの男に関する記憶が蘇ることはなかった。
男は今でもあの夢に苦しめられているのだろうか。それとも私の記憶に残っていないということは…。
「何が書いてあったの?」姉が尋ねる。
「怪談だよ。若い頃はまっていた時期があったろ」
「家に遊びに来た私の彼氏にも、怖い話ありませんかって聞くものだから、恥ずかしかったわ」
私は姉の言葉に苦笑しつつ頭を掻いた。
私がノートに夢中になっているうちに作業はだいぶ進んだようで、無造作に置かれていた荷物はあらかた持ち出されていた。
「この家、こんなに広かったんだな」
家具類がなくなった家の中はずいぶん寂しい印象を受ける。
「本当に取り壊してもいいのかしら。この家と一緒に家族の思い出まで無くなってしまいそうな気がして、なんだか怖いわ」
「いいや」と私。「僕らの家が無くなって、思い出が静かに色あせていくのはたしかに寂しい。けれどそれは自然なことなんだ」
それに何よりそちらの方がずっといいと私は思った。何もかもが満ち足りた部屋に囚われるよりはずっと。
(了)
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