夜に沈む

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 「お、見えてきたで」黎が七個目の弁当を開封しかけていた手をとめ、窓の外に顔を向けた。「あの白い建物がぎょうさん並んでるのが、白亜の島アズーロや」  白い波をうねらせる水面に浮かぶ小さな島。ギリシャの街並みを連想させる白い石造りの四角い家々、上空を旋回する海鳥の群れ、島の東側にある山の生き生きした緑の木々。それらが一枚の絵画となって私の視界に飛び込んできた。  「すごい…」  私は思わずつぶやいていた。深夜残業ばかりで家と会社を行き来するだけだった元の世界では、決して見ることができない風景だった。  山の麓には白い壁の大きな西洋風のお屋敷が立っていた。あそこにはいったいどんな人が住んでいるのだろう。  黎が島の東側の山を指差した。「ほらあそこ。山の崖の部分が洞窟になってるところがあるやろ。あそこには海賊が隠したお宝が眠ってるっていう噂があるんや」  彼が指差した先には、海にむかってぽっかりと口を開けている洞窟があった。いわゆる青の洞窟と呼ばれる、波によって崖が削られることでできた海蝕洞だ。ここからでは奥まで見ることは出来ないが、たしかに彼の言う通りお宝が眠っていそうな雰囲気が漂っている。  「ヒノモトとはずいぶん雰囲気が違うね。少し海を渡っただけで建築様式まで変わるんだ」汽車に揺られていたのはせいぜい四十分ほど。たったそれだけの距離なのにここまで様相が異なるとは驚きだ。  「さっき言うたやろ、この世界は種族のるつぼやって。種族の数だけ文化があるってわけ」  波が車窓に当たって砕ける。ひときわ大きな汽笛が鳴った。島の景色が大きくなるにつれて汽車は徐々にスピードを緩めていった。魚をくわえた海鳥が車窓を横切った一分後、私たち三人を乗せた水上汽車はアズーロの港に停車した。
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