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1.トマの遺跡にて
「学術的にも存在証明が難しく空想の国だと言われてきたが……」
「でも先生、この石像が何よりの証では?」
部下の弾んだ声が遺跡の中で鞠のように跳ね返り、こだまする。
此処からほど近い場所に住む少数民族間で口承されていた王国トマの伝説。王笏を杖のように振るい魔術を扱ったとされる女王は、身を堕とした土着神へ勇ましく立ち向かうも相打ち、結果国は滅んだとされていた。
カンテラの灯りを、おもむろに石像へかざす。暗闇に淡く浮かび上がる面差しは穏やかな表情を携え、手には伝え聞いた通りの王笏。その先端の宝珠は、欠けている。
「ほらこの欠けた王笏! 戦いで王笏は欠けたと
謳われて……」
「いや……これはおかしくないか?」
君主の象徴、この王笏が欠けたと同時に国は滅んだのだ。その後に造られた石像だと言うのか。
私は欠けた部分にじっと目を凝らす。外的要因で欠けた訳ではなく、初めからそのように作られているように見える。土層の調査は既に終わっており、この遺跡は間違いなくトマが存在したと謂れる時代のものだ。──一体、どういうことだ?
灯りの加減か、照らし出される石像が炎が揺れる度にその表情を変えている気がして、ぞくりと背筋が凍る。
存在し得ないはずの石像。
この、石像は──?
▶︎お題【欠けた王笏,勇ましい,遺跡】
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