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2.ユニコーンの花嫁
トゥーラの風や大地も悲しかろうて
あいした乙女が森の深遠へ消えていく
角ある馬に魅入られて その背なに跨って
ラーシェン トゥーラ地方民謡
この地にはかつて一角獣が居た、と言われた時代はとうに過ぎ去っている。
乙女をその美しさでかどわかす、一角獣を歌った有名な民謡。この歌も、昨今では異国の英雄を勇猛果敢な一角獣に例え、彼へ嫁ぐトゥーラの姫君について歌ったものだと言われている。私の周りでも、誰もみたことのない伝説上の動物という認識だ。
……だから、森でそれを見たとは、誰にも言えずにいる。
──角の透徹さ、白銀の毛先に返される光、じっとこちらを見つめてくる瞳の色まで鮮明に思い出せるのに。あれは幻だったというの? 寝ても覚めても、あの姿ばかり思い描いてしまう。
どうにか気を紛らわしたくて、隣町から来ているという花売りの青年から毎朝一輪花を買うようになった。森で摘んだという花は気持ちを慰め、彼と他愛ない会話をすると何故かとても気分が晴れる。口にしたことはないけれど、彼にはとても感謝していた。
ただ──彼の瞳があの一角獣と同じ濃紺の瞳であるのは何の偶然だろうかと、たまさか、頭を過ぎる。
▶︎お題【角ある馬,誰も見たことのない,かどわかす】
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