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終焉の始まり
王国に激震が走った。
神聖なる王都にて白昼堂々暗殺事件が勃発したのである。容疑者は直ぐに捕らえられ、処断されたが、何故そのような凶行を図ったのか等は全て伏せられ、大半の人々に真実が伝わる事はなかった。彼等が知りえたことは唯一つ、リオール・アルケミスタその人の死のみであった。
直系たる跡継ぎの暗殺という悲報がアルケミスタ家に伝わると、当主は泡を吹いて倒れ、妹君もまた意識を暗転させた。ようやく夫人の逝去の痛みが和らいでいた当家に与えたダメージは想像以上に大きく、深い闇を与えた。数か月に渡る喪に服した後、ヨーカーは一つの発表を行う。
「アルケミスタ家次期当主として、我が娘リーナ・アルケミスタの婿を正式に募るものとする」
跡取り息子を失った現当主は、苦渋の決断に出たのだ。
すぐさま王都より名が知れた騎士や貴族からの縁談が持ちかけられた。日を追うごとにその数は増え続け、皆競う様にその力を誇示し名乗りを上げた。裏では様々な献金が行われ、その額は地方領主の婚姻としては破格の値段であったという。中央に座する名門の傍系が殆どであったが、彼等は美辞麗句をもって麗しき娘を誘惑した。だが、その娘は頑として受け入れようとしなかったのである。
「何が不満なのだ?」
今日も激怒して去っていった門閥貴族達の対応に苦慮した父は娘にそう問う。
「家柄も有り、持参金も多額。分家とはいえ王族にも連なる。これ以上の縁談はいつくるのか分からんのだぞ」
ヨーカーの顔色は悪い。息子を亡くし、失意に陥っている父に苦情を押し付けるのは本意ではなかったが、リーナはどうしても彼等を受け入れることが出来なかった。曲がりなりにも貴族の生まれであることは理解している。その婚姻関係によっては家に繁栄をもたらす。女の性では家を正式に継げない以上、それは覚悟していた。
「お父様、お兄さまがお亡くなりになられて日が浅いのです。申し訳ありませんがそのような気には到底なれません」
「分かっている。だが、リオールがいなくなったからこそ、盤石の態勢を築かなければならんのだ」
いつものやり取りだった。
父の言い分は十分分かるリーナであったが、どうにも性急過ぎるとも思っていた。まるで、兄が居なくなることを前提に全てが動いているように感じたのだ。
普段であれば、父はこの口論を終えると静かに彼女の部屋から退却するのであったが、今日は退室する一歩手前で踏みとどまってこう娘に問いただした。
「まさか既に心に決めた者がおるのではないだろうな?」
この問いにリーナが一瞬身体をピクリと動かしたのを父は見逃さなかった。
「まさか、あの者ではあるまいな?」
リーナは窓に向き直り、ジッと景色を見続ける。沈黙を肯定と受け取った父は激しい怒りを露にしたが、娘はそんな父に一瞥もくれなかった。
「ユーリー」
心の中でリーナは呟くのだった。
それから数日後。
新たな訃報が届いた。
国境付近の警備隊が全滅し、付近の村々からは人々が次々と逃亡しているとの伝達が届いたのだ。程なくしてかの国からの書状を持った使者が訪れた。
内容は事実上の宣戦布告だった。
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