奇跡の始まり

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奇跡の始まり

 アルケミスタ家に彼がやってきたのは、とても寒い冬の夜だった。庭師の老人が万年患っていた腰の持病を悪化させてしまい、急遽白羽の矢がたてられたのが、幼い彼だった。庭師の老人がどこぞから拾ってきたらしい。国と国の諍いが激しさを増していた昨今、彼のような子供は珍しくもなかったが、そんな子をわざわざ養子に迎えたことは一同不思議に感じていたのだ。が、そう時を置くことなく皆納得することになる。 「おい坊主、アレを二十程持って来い」 「アンタ、いつものヤツを今すぐ準備しておきなさい」 「ガキ、あれを旦那様に持ってけ。陛下から下賜された特別な一品だ。注意しろよ」  少年は一重に有能だった。下働きの少年に対する扱いは想像を絶するものがあったが、彼は辛抱強く耐え、恩ある義父に報いる為に働く。満足な休みや食事等はなく、ひたすら小間使いに徹する日々はさぞ辛かったろうに、彼は名前すら覚えられることのない中でも文句一つ零さず、それどころか笑顔を浮かべながら動き回るのだった。暫しの後に義父が亡くなってもそれは変わらなかった。
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