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「こんなに走ったのはいつぶりだろうか」
数分走った後に、もう安全だろうと思われる開けた場所で、息も絶え絶えなリオールは苦笑いする。
「仕方ありません。坊ちゃまは外へあまりお出になりませんので」
一方のユーリーは呼吸一つ乱れはない。
「坊ちゃまは辞めて欲しい。僕等はもうそこまで子供じゃないし、友達じゃないか」
「そういうわけにもいきません」
従者の少年は苦笑いして手を振る。
リオールは帝王学の勉強、身分に相応しい立ち居振る舞いを日がな一日父から叩きこまれており、己が置かれている立場をよく知っていた。ユーリーはそんな彼を見かねて密かにこの悪戯を企画し、隙をみてそれを彼に伝えたのだった。親友の素晴らしい提案に無論リオールは二つ返事で答えると、かくして彼等の冒険はスタートしたのであったが、用心に用心を重ねた二人の企みは一人の人間に見事看破されていた事に気付かなかった。
「お兄さま、どちらへお出でに?」
冷ややかな声に貴族の跡取りとその下僕はビクッと身体を震わせる。
恐る恐る振り返る二人の視線の先には果たして、一人の見目麗しき少女が仁王立ちしていた。
「リーナ」
「リーナ様」
少年達は同時に息を吐き出す。
「ユーリーもユーリーです。遊びに行くなら私も連れていって下さる様、いつもお願いしているではありませんか!」
少女ことリーナは可愛らしく頬を膨らませる。
しどろもどろに言い訳を紡ぐユーリーであったが、なかなかリーナの機嫌は治りそうになかった。最終的には今後嘘をついたり騙したりは絶対にしないと約束させられてしまう。その間リオールは従者と妹の会話を微笑みながら聞いていた。まるで双子の兄弟の様に仲睦まじい様は生まれてからずっと屋敷の中に閉じ込められていた彼等にとって実に新鮮なものであり、心休まるひと時でもあった。身分の差こそあれど、幼き三人にとってそんなものは些細なものに過ぎず、例えこの先に何が待ち受けていようとも決して壊れることのない絆と信じていた。
ささやかながら、とても楽しい夜であった。
彼等は生涯通じてこのゆるやかで幸福な日々を忘れることはなかった。
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