暗転する現実

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「お前が行くことはない。僕の方から父上に抗議しておく」  母を失って日も浅いというのに、次期当主たるリオールはそう言って親友を励ました。 「…」 「大丈夫、父上の一時の気の迷いだ。話せばきっと分かってくれる」 「…」  しかし、親友の言葉にもユーリーは反応しない。  彼は孤児であり、前大戦の際に家族を皆失っている。その時に刻まれた怒りや悲しみは計り知れない。普段は大人しく当主含め他の面々の言うことには素直に従う彼もこの命令には動揺を隠せなかった。  だが、ヨーカーはそう簡単に首を縦にふらなかった。リオールは懸命に友人の過去についての話や戦闘能力の有無、主観と客観を織り交ぜて真摯に父と対峙する。何を根拠に無力な少年を死地へと赴かせるかとの強い指摘にとうとうヨーカーは折れ、ユーリーの徴兵を撤廃する旨を息子に伝えるまでに至った。少年達と少女はこれに歓喜安堵し、全ては丸く収まるかと思われた。  確かに最前線たる国境周囲への命令は取り消されたが、代わりに別の指令が下されたのだ。  それを知ったリオールは激怒した。父に再度直訴したものの、今回ばかりは撤回されることはなく、無情にもユーリーの処遇は決まってしまったのである。  国境からは正反対の南国周囲でゲリラ的に発生している蛮族との抗争、その警備任務を正式に命じられたのだった。
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