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数日後、旅支度を終えたユーリーは少年と少女、二人とのお別れを済まそうとしていた。
互いに言葉は少なかった。
ユーリーは無表情のままであり、少年は責任を感じて沈痛な面持ち、少女は涙を隠さない。三者三様、この先に待ち受ける困難を悟っているのかもしれない。
最初に動いたのは次期当主たるリオールであった。
彼は友人の前で深々と頭を下げ、謝罪を口にする。それを見たユーリーは何かを喋りかけたが、それは制止され、最後まで話させてくれと無言で訴えられた。一通り話を終えると、彼は父に今後も訴えかけてゆくこと、戻ってきた暁には下働きとしてではなく、友人として今後も付き合っていって欲しいことを告げた。そして、言い出せずにいたが、自分が来年から王都にて父の名代として政務を行うこともまた告げた。これにはユーリーは元より、妹であるリーナにとっても青天の霹靂であり、特に少女にとっては大切な人を二人同時に失うことを意味していた。幼き頃より近くに居続けた二人が遠方に旅立つことをこの場で知らされた彼女はとうとう泣き出してしまう。
兄は一言、すまないとだけ呟き、父に呼ばれていることを理由にその場から去っていった。
残された少年と少女はそれぞれの感情を抱えたまま、互いに見つめあう。永遠の時が続くかと思われたが、現実は非情だった。間もなく一人の使いが訪れ、出発の刻であると言い放った。使者が去ってゆくと一つ大きな深呼吸をし、ユーリーはリーナに向き直った。
彼は、無垢な笑顔でリーナに頭を下げ、礼を述べる。
リーナも釣られた様に頭を下げる。
数秒間そのままの態勢でいると、なんだか無性に可笑しくなり、どちらともなく笑い出した。少女は彼に必ず帰ってくるよう懇願すると、踵を返す。少女自身も早く帰るよう、先程の使者から釘を刺されていたためだ。結局自分は父や家の呪縛からは逃れられない。歯がゆくもあるが、己が意思では如何ともし難いことに心が沈む。気持ちの切り替えを済ませぬまま、歩みを続ける彼女に背後から声がかかった。
「リーナ様」
彼女は振り返る。
少年は柔和な表情を浮かべつつも決意に満ちた顔でこう言った。
「満月です。僕は満月の夜に必ず帰ってきます。神と貴女の名にかけて」
それから暫く、カンカンの使者が再度現れるまで二人は見つめ合ったまま微動だにしなかった。
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