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『天気が良いから花見決行!』
部長の一言で、我が弓道部の部活終わりの予定は、急遽組まれることとなった。
一年生たちの結束力は素晴らしく、場所取りから買い出しまでをてきぱきとこなしてくれた連携のおかげで、私たち二年生は、のんびり登場することが許された。
私たちが一年生の頃って、あんなふうに気配りできてたっけ?
三年生の卒業した春休み、二年生が最上級生のわずかな期間。
すっかり準備の整ったその場を見て、私と部長は顔を見合わせ、そして後輩たちに感謝した。
送別会を兼ねているっぽい会社員たちの座敷ばかりの中、女子高生の集まりは、かなり異色だったろうと思う。
制服姿は目を引いたとは思うけど、何かとうるさい昨今、逆にじろじろと見てはいけないという雰囲気になっていたのか、おかげでみんなして久しぶりに厳しい練習を忘れ、和気あいあいと盛り上がることができた。
ネクタイを鉢巻きにして腹踊りをしている隣のグループに負けないテンションの後輩たちに、
「素面であそこまではっちゃけられるのって、ある意味すごい」
そう部長に耳打ちすると、
「このくらいは予想範囲内よ」
部長は苦笑いして、目配せしてきた。
紙コップ(中身はもちろんお茶だ)に浮かんだ花弁と、二年生の部員たちを、交互に見つめる部長の目は、もうすっかり親父だ。
あれ、なら私はお母さんのポジション?
そんなことを思い見渡す、夢の中にいるような満開の樹々の中。あちらこちらから、笑い声が響いている。
でもどうして桜を見ると切なくなるんだろう。それは、夢から覚めたくないという思いと、重なるからなのかな。
かすかに香る甘い匂いの中でそんなことを考えながら、私は周囲の喧騒を抜けてそっと一人、その場を抜け出した。
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