第31話 飴の価値

2/2
103人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
「ありがとうございます。ああ、そうだ。これ、右近さんと左近さんの分です。良かったら疲れた時にでも食べて下さい!」  バッグに入れておいたラッピングを渡す──というよりも彼に押しつけた。  私の唐突な言動に困惑しつつも、金太郎飴のラッピングを受け取ると、少しだけ口元が綻んだ。 「これは、ありがとうございます」 (喜んで貰えて良かった) 「頂いたものの価値に見合うだけの働きをお約束しましょう」 「ん?」 「これだけ貴重ですと、十年単位でのサポートは固いですね」 「ええ!? あ、いえ。そのそんな高価なものではないですよ? 定価でも千円は行きませんし……」  左近さんなりのジョークかと思ったが、目がマジだったので慌てて提案を却下する。 「おや、人外界隈では、この飴を購入するのに毎月壮絶な駆け引きがあるというのに?」 「そう言えば時雨さんも、そんなことを言っていたような」  いっそ人外専門飴細工店の方が、値段をやや釣り上げても問題ないのではないだろうか。今までの価格は残しつつ、数量限定にして、特注としてお酒の大人向けや、写真やイラストに沿った飴細工などを募集するやり方もある。 (それに右近さんや左近さんに店番をお願いして、その分私が今よりも飴細工造りに時間を使えるのなら、そちらの方が売上げにも繋がるし、もっと多くの人外の人たちに飴を届けられる)  しかし人外界隈のことは未だよく分かっていないので、もう少し人外のことを知ってから着手するのはいいのかもしれない。  悶々と考えている私に、左近さんが心配そうに顔を覗き込んだ。 「小晴様?」 「あ、えっと。もしかして人外では、空前絶後の飴細工ブームでも来ているのでしょうか?」  左近さんはブフッ、と噴き出して笑った。屈託なく笑い姿にビックリしてしまう。 「左近さん!?」 「いいえ。ブームや他の飴ではなく、小晴様の作る飴だからこそ極上の味になるのです。稀人の中に時折いるのですよ、人外が喉から手が出るほど美味な味を作り出す逸材が」 「それが私……?」 「はい。だからこそ人外界隈では熾烈な抗争が起こっているのですが、あくまで小晴様ご本人に危害を加えないという盟約があるので、身の危険はないかと」 「それは……みなさんが常識のある大人な方でよかったです」 「ええ、中には欲塗れで面倒や輩もいますから、見つけたら即廃除するのでご安心を」 「(ふ、不穏当なワードが聞こえたような?)それは追い返してくれるとか、って意味ですよね?」 「ふふっ、どうでしょうね」  無言でにっこりと笑った左近さんを見て、そう言えばこの人も人外だったのだと痛感する。一番常識人っぽいけれど、日頃の行いは気をつけよう。そう私は心に誓ったのだった。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!