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次の土曜日、花火大会当日。
予定通り、朝からやってきた大智は、店のテーブルとイスを全部上げて、まずは掃除から始めた。
テーブルをコの字に並べて、料理を並べる場所を作る。
テラス席に、沢山の椅子を並べ、花火を見ながら、お酒が楽しめるようにテーブルも配置する。
料理の内容も、いつものイタリア料理のアラカルトの他に、イカやトウモロコシの醤油焼、焼きそば、たこ焼きなどのお祭りメニューも用意し、小さな子供たちが楽しめるように、お菓子のつかみ取りや、かき氷などもそろえる。
昼ごはんは、賄で手早く済ませ、今日の準備に没頭する。
三時には、いつもこの日に、手伝いを頼まれる、高校時代からの友人の月島空知と、月島海人も応援にやってきた。
「では、紹介します。
こちらは、大学生の東条大智君、いつもここで課題をしているンだけど、今日は手伝ってくれます」
春馬は、コホンと咳払いをしてから、紹介を始めた。
「いつも、良くしてもらっているので、せめてもの恩返しです。足手まといにならないようにがんばります、よろしくおねがいします」
大智は、ペコリと頭を下げた。
「それでこちらは、月島海人と空知です。
俺の高校の同級生で、毎年手伝ってくれています、わからないことがあったら聞いてください。
そして、これを言っておかないと、大智君が挙動不審になっちゃいそうなので言います。
二人は恋人同士で、同棲しています、しかも兄弟です、時々目に余るほどイチャイチャするので、びっくりしてください。
二人についていっぱい聞きたいことがあると思いますが、今は割愛します」
「こっそりヤルから大丈夫だよ」
空知は、ニヤニヤしながらそう言った。
「しません」
海人は慌てて訂正したが、春馬に生暖かい目で見られた。
大智は、大人の対応でゆるく笑って、頷いた。
それぞれに紹介を済ませると、料理を並べる前に、そろって夏祭りらしく浴衣に着替える。
春馬の友人という、男子高校生カップルの一人、桂川律が、浴衣を着つけてくれるらしい。
律もいつもお世話になっている春馬に、何か恩返しがしたいということで、浴衣の手配から、着付けまで担当してくれることになったらしい。
律の彼氏の貫太も、その場に来ていて、律のサポートをするとのことだった。
貫太や律は、海人と空知とも面識があるようで、楽しそうにワイワイと話しながら作業は進んだ
「海人いい! 似合う、可愛い♡」
浴衣をきた海人を、空知が手放しで褒めたたえる。
「かッ、可愛いくはない!」
顔を真っ赤にして、海人が空知の口を押えた。
その様子を、春馬は大笑いしながらみている。
「旦那、買取りもできますよ、見てくださいよ、隙だらけでしょ、どこからでも手が入りますよ」
などと、悪い顔で手を揉みながら耳打ちしている
「買う! 買います! 一式買います!」
空知は手を挙げて、元気に答えた。
「はい、毎度」
空知と春馬は、無言の海人に手刀を下ろされていた。
同級生三人のやり取りは、学生時代に戻ったかのように、楽しそうだ。
大智の浴衣は、薄藤色の変則縞で、背の高い大智に良く似合っていた
「大智~ 似合うよ、呉服屋さんの若旦那みたい」
「それ、褒めてます?」
「褒めてる、本気で褒めてる」
春馬のその一言に、大智は盛大に照れてしまい、ただうつむいた。
そう言う春馬は、千歳緑の浴衣で、大智視点では、大人の色気を三割増しさせているので、心の中で独り神様に感謝した。
律と貫太は、料理を並べるのを手伝ってくれて、パーティーの開始時間になる前に、春馬が別に作って詰めておいたお弁当を持って、二人で花火を見るといって帰って行った。
ワクワクした可愛い顔で、貫太と律がおれいをいうので、春馬も照れてイヤイヤと手を振った。
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