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次に目を覚ました時、天井は白くて見覚えのない場所だった。
「起きたか?」
右側から声をかけられて、そちらを見ると、そこには空知が居た
「空知」
春馬が弱々しく呼んだ
「レストランが開いていなくて、部屋に様子を見に行ったら、倒れていたから、救急車で運んだ、憶えているか? 」
空知は簡潔に事情を説明した、何処かぼんやりとしたまま、春馬は首を振った。
「そうか」
空知が、ナースコールを押したので、まもなく看護師と医者がやってきた。
医者が問診しながら、色々な質問をしてくる。
「お名前を教えてください」
「阿見春馬です」
春馬は不思議そうに、答える
「今日は何日ですか?」
「何日? えっと……6月20日? 」
本当は9月の下旬だった
「では、今おいくつですか? 」
「えっと……十八歳? いや二四です……あれ? 」
本当は三一歳だ
一歩下がってその様子を見ていた空知が目を見開く、春馬の言っていることが、おかしかったから…。
「今が西暦何年か分かりますか? 」
「西暦…えっと、20××年だっけ? 」
春馬が答えたのは、三年も前の年号だ
「では」
医者は一歩下がっている空知を見た
「あの方が誰かわかりますか? 」
「…月島空知」
「ご関係は?」
「高校の同級生です」
それはあっている。
「阿見さんは、気を失って倒れていたようです、何かにぶつかったとか、憶えていることはありますか? 」
「……いや、何かに当たってなんかいません、どうして倒れていたんだろう? 」
「そうですか……頭を強く打っている可能性がありますから、明日、頭をよく調べてみましょう、今日はこのまま入院になります」
「いや、どこも、なんともないです」
「念のためです、お願いします」
「……わかりました」
空知と春馬は、病室を出て行く、医者と看護師を見送った。
「入院かぁ、オーナーに連絡しないと……」
「俺が連絡しておくよ、オーナーと大智君にも」
「ダイチって誰? 」
「え? 」
春馬は不思議そうに首を傾げた。
「……誰って、お前……」
脳波検査の結果を踏まえた、医者の診断は、多少の記憶の混濁があり、原因として考えられるのは、ショックなことがおこって、それから心を守るために、不都合な記憶は思い出せなくなっているのだろう、今は思い出せないが、落ち着いたら記憶も徐々に戻るだろう、という事だった。
無理強いはしない方がいい、とのことだったので、空知はあえて大智の話をしなかった。
空知は、事情を確認するために、大智に連絡を取った。
大智は、空港で倒れたため、明日の飛行機で改めて、イギリスに行くという事だった。
春馬の、今の状態を話すのは、気が進まなかったが、空知が事情を聴くうえで、避けられないことだったので、正直にすべてを話した。
大智は冷静に現状を受け入れてくれた。
空港で春馬から別れを告げられたこと、
留学を取りやめることを、春馬から禁じられたこと、
春馬の気に入っていたライトを使って、春馬にプロポーズの予約をしたことを教えてくれた。
大智は、春馬の容態をとても気にしていた。
それでも、春馬との約束を守るために、留学することを約束してくれた。
空知は、大智と話すうちに、春馬に対する思いの深さを知った。
空知は、春馬の事を定期的に連絡する約束をした、それぐらいしか、大智の為にしてあげられることはなかった。
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