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貫太と、大智を見送って、皆は、それぞれにログハウスの中に移動した。
『少し休憩』と言って、コーヒーをいれた。
各々、好きな場所に、座った。
熊と美桜は、ダイニングのテーブルに残り。
空知、海人、春馬はソファーの周りに集まった。
「大智君、また男前になっていたなぁ」
「そうだね、胸板厚くなっていた。
鍛えて、いるのかなぁ、留学、大変そうだったけどな」
海人と空知が、そんなことを話していると、春馬が二人を気にして、チラリと見る。
「なに? 『大智くん』春馬の好みのタイプだから、気になる? 」
海人が、したり顔で言う。
「そうそう、背が高くて、細マッチョ、目の色素が薄くて、低めの良く通る声、そして何より好青年」
空知が面白そうに、春馬をのぞき込んでくる。
春馬はその視点を避けるように、窓の外を見る。
「そうだなぁ、でもあんないい男、誰もほおっておかないだろ」
「まぁね」
「……彼女とか、いるのかなぁ」
春馬のその呟きに、空知と海人は優しく笑っていた。
空知は、楽しそうに春馬に言う
「聞いてみたら、『明日も来る』って言っていたよ」
「え? じゃあ、泊っていけばいいのに」
春馬は驚いて、立ち上がると、貫太の車が、走っていった方向を、窓辺に立って眺めた。
「そう? よかったの? 」
海人が、『意外だ』と言わんばかりに、聞き返した。
「どうして? 」
春馬は、不思議そうに、海人を見つめた。
「だって、好みのタイプでしょ、好きになっちゃうよ」
海人は、真剣な顔をしていた。
「……好きにならないよ、俺はそうゆう事、しばらくお休みだから」
春馬は、振り返って、海人と空知を見る。
「きっと彼は、その決心すら、超えてくるよ」
空知は、そう言って、その先の言葉を飲み込んだ『俺は、そう望んでいる』
夕食と入浴を終えて、明日の食事の下準備をした春馬は、自分の部屋に戻ってきた。
静かに、クローゼットを開けると、一番奥に置かれている、収納ケースをそっと開けた。
春馬の記憶は、時間とともに少しずつ戻ってきていた。
大智と恋人になった事。
隆元に、『別れて欲しい』と頼まれた事。
留学する大智に、ずるい方法で、別れを切り出した事。
あの、丸いライトに、残された大智の決意。
大智の『未来を守る』 その為に、春馬は、『記憶を失った』ふりを、続けることにした。
留学先から、大智が、帰ってこないように……
春馬が、大智を諦めるために……
春馬は、ケースの中から、丸く白いライトを大事に取り出した。
目の前に、捧げ持つと、ギュッと抱きしめた。
「大智ィ……いい男になったね。
お帰り……
留学大変だったんだね。
よく頑張った」
小さな声でつぶやく。
左の胸の奥が、思い鉄球を、撃ち込まれたように、鈍く痛む。
今日の、大智の顔が、思い浮かぶ。
春馬と、一緒に笑う顔。
話し声が、落ち着いていて、春馬を、気遣ってくれていることが分かる。
『初めまして』といった時の、傷ついたような顔を思い出すと、胸の奥がキリキリと痛かった。
「大智ィ」
もう一度静かに呼ぶ。
『春馬さん』
繰り返し思い出す、あの低く響く声が、聞こえた気がした。
叫び出したい衝動を必死で抑える。
もう戻れない、決めたことだ。
ただ、思い知っただけ、大智を愛おしいと思う事……
また、狂おしいほどに、彼を求めてしまう事。
春馬は、小さく丸くなった。
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