おなかが空いた

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「おなかが空いたよー、まりっぺ!」 「えー? サキちゃんたら、さっきお昼ごはん食べたばかりでしょ?」  お昼休みの終わりを告げる予冷のチャイムがチャラーン・ コローンと高校中に鳴り響いている中、一年三組のかしまし娘と言われている私たち三人の中でも、正義感が強くて特攻隊長の異名を持つ彼女は、予備として隠してあるらしいおやつを探し求めて自分のリュックをあさりだす。 「おっかしいなあ、確か小腹を満たすために非常用のお菓子を隠しておいたはずなんだけど……」 「ねえねえ、 サキちゃん。そのお菓子って、今朝学校に来る途中の公園でひもじそうにしていた捨て猫ちゃん達に細かく砕いてあげてたお菓子のこと?」 「ひ! しまった! あれ、がそうかな? うん、そうかも」  困った人をみると、今回は動物だったけど、考えるよりも早く行動しちゃう サキちゃんは、今朝の行動を思い起こすように腕を組んでうんうんとうなる。  私とアキ子ちゃんの二人は、そんなサキちゃんを温かい目で見つめてほほ笑んだ。  * * *  キキー!  ドカーン、ガシャン! 「大変だ、女子高生が大型ダンプにはねられたぞ!」 「早く、救急車を!」  学校の帰り、ミルクや捨てられた子ネコが食べられそうな食料をコンビニで買い込んでから公園に向かう。私たちが公園の前の大通りに差しかかった時にそれは起こった。  公園の茂みからよろよろと歩いて大通りに出てしまった捨て猫の一匹が、大通りを爆走している大型ダンプにひかれそうになるのを目にしてしまったサキちゃんは、あっという間に歩道から飛び出して猫をひろう。しかし、大型ダンプからにげきる時間まではなかった彼女の身体は、衝突の衝撃でバラバラになって公園の前の歩道にまき散らされる。 「きゃぁー、サキ!」  友達の大変なすがたを目の前で見てしまったアキ子は、悲鳴とともにその場に倒れこむ。  私はすぐに道路に散らばったサキちゃんだったモノを人目につかない場所に集めてから、彼女の頭を探してその首筋に牙をたてる。  * * *  そう、サキちゃんやアキ子には隠してきた私の秘密。それは、私が吸血鬼であること。紫外線防止のファンデーションとカラーコンタクトを使えば、吸血鬼が昼間に女子高生としてふるまうのは造作もない。  そうやって吸血鬼の秘密を守っていたけど、バラバラになったサキちゃんを復活させるにはもうこの方法しかない。そう、彼女を吸血鬼の仲間に迎え入れる。そうすれば、彼女は私とともに永遠に死なない。  あんなにやさしい彼女を死なせるのは、神様が許しても私はゆるさない。  でも、これでもう空腹になやまされることはないだろう。ごめんねサキちゃん、あなたの楽しみを奪ってしまって。  * * * 「う、ふゃぁー。あれ、あたし、ダンプと衝突したはずだけど無傷?」  吸血鬼として生まれ変わった彼女は、むくりと起き上がると自分のからだのあちらこちらを触りながら不思議そうな顔をしている。  まだ、混乱しているだろうから真実を告げるのはもう少しさきにしよう、そう思って彼女の様子を見守ると……  彼女は、まだ気を失って倒れているアキ子の首元をじっと眺めながら、もの欲しそうにつぶやいた。 「おなかが空いた……」 (了)
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