1.小学生編

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ

1.小学生編

この世には男女の性の他に、第二の性という三つの性がある。 容姿端麗、頭脳明晰で男女共に妊娠させることができるアルファ、何に対しても平凡なベータは三つの性の中で最も割合を占めている。 そして、アルファと同等に人口が少ないオメガは男女共に妊娠ができ、それは三ヶ月に一度「発情期(ヒート)」と呼ばれるオメガ特有の期間で妊娠する確率が格段に上がる。 しかし、その体内に蓄積されたフェロモンが放出される期間のせいで見境なくアルファを誘惑してしまうため、卑しい性だと酷い差別をされてしまう。 だから、オメガにはなりたくなかった。 だが、そんな願いも虚しく、小学高学年頃に受けた第二の性で「オメガ」だと診断された。 何かの間違いだと、そう思いたかった。 「うわー! こいつ、オメガじゃん!」 「⋯⋯あっ」 ぼんやりと診断書を眺めていると、ぱっと取られてしまった。 「えー? まじ?」「本当?」とクラスメートが興味本位で人の診断書を見ようと寄ってきた。 「勝手に見ないで⋯⋯」 「⋯⋯花梨ちゃん、本当にオメガなの⋯⋯?」 取り返そうとした時、背後から声を掛けられた。 振り返るといつも一緒にいる友人らが花梨のことを見ていた。 花梨のことを案じてなのか、心配そうにどこか不安げな目が並んでいた。 「そ、そんなわけがないよ。だって、オメガがそもそもいないに等しいって保健で言ってたよね。それに、私の親どっちもベータだからありえないって」 「そうだよね。あいつ何かと花梨にちょっかい出してくるから信用ならないし、そうやってくるの好きだからやってくると思うと、本当ダサいんだけど」 「花梨も私も不愉快に思うことだけど」と今度は哀れんだ目でからかってきた男子を見ていた。 その男子はというと、すぐに先生にこっぴどく叱られ、集まっていたクラスメートにも軽く叱りつつ、花梨の診断書を折りたたんだ状態で渡してくれた。 「⋯⋯ありがとうございます」 この紙は友達にも親にも見つからないようにしないと。 くしゃくしゃになるのを構わず、掴んだ手に力を込めた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!