インスティンクト インコレクト

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「連絡先、交換しよ。そうだ、さっきバイト探してるって言ってたけど、おれの友達のバイト先のカフェでよかったら紹介できるかも。その店のURL送るから、それ見てよさそうだったら教えて」  わーい。両手を上げてはしゃぐと、先輩はふいに口を閉ざし、わたしをじっと見つめた。その瞳はお正月の黒豆のように艶やかで、ふっくらとやさしい。  けれど、奥底にはなにかべつの生き物が潜んでいるような、そんな予感も孕んでいた。  上気した心臓色の唇が、そうっとひらく。 「おまえ、すごい無邪気だな」  飲み会がお開きになり、従兄の正美(まさみ)ちゃんのバイトの時間までファストフード店で時間をつぶすことにした。  正美ちゃんは「もう遅いし、キヨは帰れ」と言ったけれど、まだ一人になりたくなかった。大勢でわいわいしたあとに、ぽつんと一人になるのはどうしてあんなにわびしいんだろう?  そう言うと、正美ちゃんは露骨に眉をひそめた。 「どこが大勢とわいわいなんだよ。おまえ、ほとんどあの男とふたりでしゃべってただろ」 「そんなことないよ」 「ある」 「ない」 「ある」 「ない」 「じゃあ、あの男以外の名前は? 連絡先は?」 「それは、えっと」 「ほらな」  正美ちゃんはふふんと鼻で笑った。頑固なうえに意地が悪い。わたしは唇を尖らせ、ストロベリーシェイクをじゅーっと吸い込んだ。今日はいつもよりうんと甘い。
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