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熊だ!
真っ黒でカスミより大きな毛むくじゃらが車にもたれかかっている!熊としては小柄な方だろうがこれは洒落にならない。仙人どころか動物達の餌食になってしまう!
しかし、更に悲劇は上乗せされる。
面倒臭そうに狼狽えるカスミの瞳にゆらりと映ったものは、その熊より大きな何者かの姿だった。
ああ、終わったな私。
まあいっか、めんどくさいし……
☆
次にカスミが目を開いた時、そこにあったのは見知らぬ天井だった。
木材を組み合わせて作られた頑丈なログハウスの、年季の入った天井。ぶら下がった簡素な照明が眩しい。背中には畳の感触。
「気が付いたかい」
面倒臭そうに定番の台詞を投げ掛けて来たのは、三十代くらいだろうか、紺色の作務衣を着た筋骨隆々とした背の高い男性だった。
「……ええっと……」
面倒臭くて上手く言葉が出ないカスミに、男性は微笑む。
「大丈夫かい?あんた、動物達を見て気絶したんだ。みんな俺の友達なんだけどな」
長い黒髪はつやつやだし、引き締まった精悍な顔は髭も剃ってある。作務衣も洗濯されている様だ。
「あ、ありがとうございます」
面倒臭いがカスミは起き上がって頭を下げた。
同時に、気を失っている間に何かされたんじゃないか、という疑問が湧いて来たが、言わなかった。
だって面倒臭いし。
実際のところ、男性も何も訴えられる様な事はしていなかった。
だって面倒臭いし。
「ほら、声がするだろ?みんな心配してたんだよ」
窓の外を見ると、やはりそこは山の中だった。一面の緑の中でさっきの男鹿や熊達がこっちを見ている。かわいい。
どうやら動物達には面倒臭いという感情はなさそうだ。
会ったばかりだが、この人がこの山に住むという仙人なのだとカスミは確信した。
本当に動物が友達らしいという事だけでなく、彼とログハウスにはすぐに気付く不思議な所がたくさんあったのだ。
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