LOST TASTE

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「何処かに急いで出掛ける用事だったのかい?」 「いえ、もう大丈夫です」 面倒臭いけど、さっき面接先にも連絡はしておいた。 「良かった。実は若い女性に会ったのは久しぶりでね。やる気が出てきた。少し話し相手になってくれるかい?」 「はい、喜んで」 面倒臭いが命の恩人だ。それに、カスミも彼に興味がある。面倒臭さを凌駕する程に。 だって、彼は眩しい程の清潔感に溢れている。なぜだ。 こんな場所に動物達と一緒に住んでいたら、嫌でも体臭が凄いはず。仙人様なんて威厳と同じくらい匂いも漂うはずだ。 ましてやスメハラなんて面倒臭い言葉はとうの昔に消滅したこの時代、ちょっとぐらい人が臭いのは当たり前。タレントだって小ぎれいにしていたら嫌われる。魅力的な不潔感こそトレンディ。 それなのに彼からは、今日はお風呂に入って来たカスミより体臭を感じない。 それに、このログハウスには何も無い。 部屋は今二人がいる一つだけの様で、出入り口以外にドアは無い。 畳の上にある物は少しの雑誌に布団と座布団、タンス、あとはパソコンとモニター、それらを乗せる机だけだ。押し入れ的な収納スペースも見当たらない。 仙人がパソコンを持っているのも意外だが、他に電化製品が無い。冷蔵庫や電子レンジさえ…… いや、それどころじゃない。 キッチンが無い。食器棚も、鍋やフライパンも無い。ガス台が無い。 いやいや待って、水道が無い? ト、トイレも無い? そんな馬鹿な。いくら面倒臭いからって…… そうか、ここで生活している訳ではないんだ。 男性の一人暮らしなら私には見られたくない物だってあるかもしれない。ここは動物達の相手をする為の小屋なのだろう。 でも、布団はあるんだよなあ。 「そうそう、車は直しておいたよ。外に置いてあるから心配しないで」 「えっ?」
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