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でも?何かあったの?
リスを撫でながら彼は続ける。
「この技はそう簡単にマスター出来るもんじゃない。だけど親父が指導して、たくさんの真面目な人が使える様になったらどうなるか。分かるかい?」
「そりゃあもちろん、みんなめちゃくちゃ助かるに決まってます!」
だってこんなに便利な事はない。面倒臭いけど覚えたい人はたくさんいるはずだ。
食事やトイレの心配も、洗濯やお風呂の面倒臭さもなくなる。救助隊や探検隊には最適だ。病院に通う事も減るだろうし、体が弱った人がこの技を受けたら一発で元気になりそうだ。
「ところが、そうなると困る奴らがいるんだよ。こんな世の中でも、金儲けは面倒臭くないって奴らがな」
そう言われても、お腹いっぱいで苦しいカスミにはピンと来なかったが。
彼の父親の技は本物であるが故に、広まると物が売れなくなってしまう。
胡散臭い健康食品や栄養剤、薬品などを販売する面倒臭い大企業にとっては邪魔だったのだ。
最初はスポンサーになると声をかけて来た。味方に引き込んで製品のPRをさせようとしていたのだが、あまりに胡散臭いので断ると、面倒臭い事になった。
あいつは詐欺師だ、そんな事が出来るはずがない、と面倒臭いあらゆる手段を使って妨害を始めたのだ。
「そうこうしてるうちに、若くして母さんは亡くなってな。
親父と俺は一緒にその企業を文字通り叩き潰したんだが、生きるのが嫌になったんだろう。百二十歳で亡くなった」
そういえば昔、胡散臭い会社がいくつか同じ時期に建物ごと潰れたというきな臭いニュースがあった様な。
ところで一体この人はいくつで、お父さんがいくつの時の子供なのだろうか。お母さんは普通の人だったのだろうか。
「そして俺はそれからここに住んでる。
もう面倒臭い連中の顔は見たくもないからな。
腹ぁいっぱいだ」
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