LOST TASTE

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西暦2☓☓☓年。 人類はうっかりころっと滅亡する所だった。 世界大戦、資源の枯渇、宇宙人の侵略…… そんな事が原因ではない。 いつの頃からか地球に蔓延り始めた、無気力という大罪。 地味に人類の発展にダメージを与え続けた所謂『いいじゃんシンドローム』が最高潮に達したのだ。ある意味パンデミックだ。 自分一人が頑張ったって世の中は変わらない。 夢の為に生きるなんて真剣過ぎてカッコ悪い。 仕事なんか張り切ったって給料は上がらない。 お金なんか稼いでも、欲しい物とか特にない。 結婚は人生の墓場、即ち恋愛とはゾンビ化だ。 だからさあ、もう適当でいいじゃん。 いや、適当とは本来そういう意味ではないのだが。 しかしまともな働き者だってちゃんと残っていた。こんな事ではいかん、と彼らが必死で警鐘を鳴らし、さすがの困ったちゃん達もちょっとだけ立ち直った。 だが、所詮ちょっとだけだ。 堕落した人々は、やらなくても生きて行ける面倒臭い事は率先してやらなくなった。 だって面倒臭いんだもん。やる気が出た時にすればいいじゃん。やる気が出た人がすればいいじゃんいいじゃん。 人類は滅亡は免れたものの、誰もが密かに面倒臭いと思っていた事を、密かではなくした。 例えばこの日本でも、習慣として身に付いているが実は毎日やらなくても平気なもの。 掃除、洗濯、入浴、そして…… これは、無気力と適当が吹き荒れる世界の中で、準備から後片付け、歯磨きまで全てにおいて面倒極まりない「お食事」の素晴らしさに目覚めた者達の、希少な部位から僅かに取れる生臭い珍味の様な物語である。
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