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7 ミニブタとガラ悪オトコ
「昨日はありがとね。ちょっと野暮用が出来て、日和ちゃんのバイト初日に立ち会えなくてごめんよ。小熊から聞いたけど、日和ちゃん大活躍だったらしいじゃない。小熊が喜んでいたよ。ありがとうね」
店長の絹田は不思議な男だ。物言わぬ動物たちとどうやって会話をしているのだろうか。
「今日のお客様も少し揉めるかな? でもオレがいるから大丈夫!」
爽やかな笑顔で言う絹田に、そもそも動物に店番させるってどうなの、と口に出さずに日和は思った。
今日のお手伝いはミニブタ。
ピンク色でまるまるした体に真っ白なエプロンをている。小さな目もクリクリしていて可愛らしい。
そこへカランコロンとベルが鳴り、はらぺこ亭の扉が開いた。
入って来たのはガラの悪そうな男。
「なんだ、この店? なんか吸い込まれて来たぞ。てめぇ、何しやがった?!」
ミニブタがおしぼりとお冷を持ってガラの悪いオトコに駆け寄って行くのを見て、日和はハラハラした。
「なんだよ、このブタ。気色悪ぃんだよ!」
ミニブタはおしぼりとお冷を男の前に置き、キラキラした目で見つめる。男はそんなミニブタを突き飛ばした。ぽよん、ぽよんとボールのように弾み、起き上がるミニブタ。
それを見た男は、ますますカッとした。
「あー。うちの従業員を傷つけないで貰えますかね」
厨房から状況を見ていた絹田が男に声をかけた。
「あぁ? なんだてめぇは? コックか?」
絹田に掴みかからんばかりの勢いで悪態をつく。
ミニブタが、男に料理を運んできた。
肉じゃが、ごはん、野菜の和物、かき玉汁と言った定食スタイルだった。
「なんだ? このしみったれた定食は! 飯屋ならもっと精のつくもん出しやがれってんだ。カツとかトンテキとかよ。そこにちょうどいいのがいるじゃねぇか。無理やり連れてきたんなら、客が食いたいもんだせよ!」
ミニブタは罵られても暴力を振るわれても、なぜか男の側に行き、じっと見つめて男の言葉を聞いた。
「と、言ってるけど。どうする?」
ため息をつきながら、絹田がミニブタに話しかける。項垂れるミニブタ。両手を組み合わせ、淋しげに絹田に頷いた。
「分かった。キミの願いを優先することがオレの仕事だからね」
ミニブタにそう言うと、絹田は男に向き直った。
「じゃあ、お客様。これからトンカツ調理に入ります。お時間をいただくので、先にそちらの料理を食べて待っていてください」
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