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9 はらぺこ亭のバイト代
「じゃあ……ここにいた小動物たちは……」
日和の言葉に、絹田が笑顔で頷く。
「日和ちゃんの思っている通り。世の中には不思議なこともあるよね。」
日和は絹田の目を見つめた。
薄々、そうじゃないかなと思っていた。
記憶の奥底にあるみかん紅茶とオレンジチョコレートムースは、小さい頃にお母さんが誕生日やクリスマスに作ってくれていたメニューだった。
「放っておけばいいのに、家族を心配している者も多くてさ、オレは毎日大忙し。ここでの仕事は終えたから、明日からはまた別の場所で開店することになるかな。そんな訳で日和ちゃん。キミにバイト代を渡さないとね。現金か願いか、どちらかを選んで貰えるかな」
緊張した面持ちで日和は頷いた。
「白い、モフモフうさぎさんに。……お母さんに、会わせてください」
言って日和は絹田に頭を下げた。
絹田が微笑む。
「きっと日和ちゃんは、そう言うと思ってた」
厨房から、トコトコと白いモフモフが歩いて来る。
日和はうさぎに駆け寄ってしゃがみ、胸に抱きしめた。
「ずっと心配かけて、ごめんね。みかん紅茶を飲んだあの日から、お腹が空いて、ご飯が食べられるようになったよ」
うさぎは日和に抱きしめられたまま、日和をぎゅうっと抱きしめ返した。
「ありがとう。お母さん。お母さんのお料理、思い出させてくれてありがとう。美味しい、を思い出させてくれてありがとう。お母さんのお料理を思うと、おなかが空く……」
うさぎは丸い手で日和を抱きしめ、片手で背中をトントン、と優しくたたいた。
「お母さん、何度言っても言い足りない。本当はもっとずっと一緒にいたかった。もっとお母さんのご飯、食べたかった! ……でも。安心してね。これからはおばあちゃんにお料理を教わって、私もお腹が空いた時に、美味しいご飯が作れる人になるから。お母さんが見たら、おなか空いた! って思うようなご飯、作っていくから」
日和はうさぎと抱き合った。
うさぎは白くてモフモフで、そしてとても温かく、日和の心を満たしていく。
「たくさん、ありがとう。お母さん」
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