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1 桐崎日和(きりざき ひよろ)
おなかが空いた。
そんな感覚は、もう十数年感じていない。
霧崎 日和はヒョロと呼ばれている。
細くてヒョロヒョロだから。
口の悪い男子には、「モヤシ」とあだ名をつけられて笑われる。
かなりの偏食だし、食も細い。
そもそも、食べることに重きをおいていないため、食べても食べなくてもどっちでもいいと思っている。
いつだって何が食べたいのか分からない。
食事は苦痛。
いつからそう思っているのか、いつからこうなったのか、自分でも分からない。
「日和さぁ、ダイエットとかやめたら?」
事情を知らずに、食べることを進めてくる人たちは苦手だった。
だから恋人はおろか、仲のいい友人も作らない。
大学でも、大概一人。
シリアルバーを3等分にして、朝、昼、晩と一欠ずつ。それが日和の一回分の食事だ。
一欠のシリアルバーなので、大学の食堂には行かない。大概校内のベンチに座って、もぐもぐと済ませ、その後は本を読むか、スマホを見て過ごした。
大学が終わったら、コンビニでバイト。
でも接客が下手すぎて、お客様からクレームが入り、以来シフトから外されている。
解雇同然の処遇だった。
奨学金制度を利用して大学に通っている日和にとって、バイトは未来の奨学金返済のため。
クビになるのであれば、一刻も早く次のバイトを探さなければならない。
コンビニのバイトがダメならば、何の職種を選べばできるのか。
スマホで検索していく。
飲食店、は除外。
食に興味がないし、調理などできない。
と言ってコンビニの接客が出来ないのに、ウェイトレスなどの接客はもっと無理だろう。
宅配、工場作業など力仕事は体力不足で自信がない。
と、すると工事現場の警備員か、清掃員か……。
ピタリと合う求人も見当たらず、日和はため息をつきながら、大学から徒歩15分の距離にある自宅まで、歩き始めた。
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