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 浮かんだ想像を必死にシオは払った。ガロが自分を売るだなんて、あり得ない。だって、自分は非常食だ。ガロにとっては、ただの非常食なのだ。  そこまで困窮してねえよ。ガロの言葉を思い出す。もしかして、シオという元人間は、既にガロにとっての非常食ではなくなっていたのでは。いや、非常と言うのは食べると言う意味ではなく、食べるための金にするという意味だったのでは。  もうチヅの言葉は耳に入らなかった。違う話題へ相槌を打つことも忘れ、果物を買わないうちに、ふらふらと列から離れた。チヅこそが何かを企んでいるという想像には至らなかった。ただ話好きな化け物は、自分の興味のままに喋っただけだろう。  部屋に帰るべきか。帰っていつも通り食事を作って、ガロを迎えるべきなのか。覚束ない足取りで歩きながら、シオは考える。普段通りに振舞ったつもりでも、勘のいいガロはきっと自分の動揺に気付くだろう。その時、自分は食われてしまうのかもしれない。  次第に、シオの足取りはしっかりとしていった。  ガロになら食われてもいい。はっきりとそう思った。ガロの腹を満たす為ならば、惜しいものなんてなにもない。  買い物を済ませて、部屋に帰ろう。そう思いくるりと踵を返したシオの鼻先で、誰かが立ち止まった。  青く物々しい制服に、白い無表情の顔。シミもしわもなく、まるで面をつけているかのような、ただの目と鼻と口。双眸が自分を上からじっと見据えている。  半開きの口は動いていないのに、声だけが漏れた。 「人間だな」  それはチヅに聞いた通りの、人狩りの姿だった。
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