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「ここが終点だ。降りろ」
立ち上がった男がぶっきらぼうに言い、シオも座席から下りてホームに出た。床と柱と屋根があるだけの、閑散とした見たことのないホームだ。
「ここは、どこ」
釣られるように男の後ろをついて歩きながら尋ねる。だが男は鬱陶しそうに背後を一瞥して言った。
「街だ」
「街って、何市の? それとも、県出ちゃった?」
返事をせずに男が改札を出たから、シオは慌ててポケットを探り切符を取り出した。とても二百四十円区間ではなかったが、おずおずと差し出すと、駅員はそれを受けとった。青い制服と帽子の駅員を見上げて、シオはぎょっとした。異様に目が大きく、口が耳まで裂けている。灰色の皮膚はしわしわに乾ききり、まるで紙のようだ。慌てて駆け出し、シオは男の背にぴったりくっついた。
「なんだおまえ、ついてくるな」
「さ、さっきの、駅員の人……」
「あれが普通だ。ここじゃおまえがバケモンなんだよ」
男が立ち止まり、シオも足を止める。二メートルはなさそうだが、やはり背が高い。見上げていると、男は山高帽を右手で取ってみせた。
シオの喉の奥で引きつった悲鳴が漏れる。震える足を引くと、ぶかぶかのクロックスがすぽりと脱げた。
男の顔はまるで狼そっくりだった。頭に生えた三角の耳、金色の鋭い瞳、突き出した鼻、口を小さく開けただけで尖った牙がはみ出す。その顔は灰色の毛でおおわれている。
「今日の飯は、おまえにするか」
真っ赤な舌がだらりと口から垂れ下がるのが見えた途端、シオは声をあげて走り出した。
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