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3
目が覚めても、窓の外は夜だった。煌々と街の灯が輝いている。ソファーの上で目を覚ましたシオに、ここは朝と昼のない異形の街なのだと狼男は言った。ごくまれに人の世界と繋がることがあり、シオのような人間が迷い込むことがあるらしい。
狼男に言われるがまま、バスルームでシャワーを浴びた。いつの間に手に入れたのだろう、身体に合うサイズの服を渡すのに、大人しく着替える。だがズボンと下着の後ろには指が三本通るほどの穴が開いていた。
「針と糸、持ってない……?」
着替えたはいいものの自分で縫って直そうとするシオに、狼男は裁縫道具ではなく一つの面を押し付けた。それは狐の面だった。白い顔に、細い目の周囲には赤い隈取の模様がある。
「ここでは、人間は食いもんだ。外に出れば、さっさと取って食われるぞ」
この面をつければ、人の姿を隠せるのだと言う。半信半疑で、シオは洗面所の鏡の前で、そっと顔に面を被せた。
吸いつくようにぴたりと面がくっついたと思うと、全身を妙な感覚が駆け抜けた。むずむずとした痒みに似た、くすぐったいような感触。そして鏡を見るシオは、思わず声をあげた。
自分の顔が、面に似てはいるがリアルな狐のものになっている。それだけではない、服から覗く肌一面に白い毛が生え、短くなった指の先から鋭い爪が飛び出す。悲鳴と共に面を外そうと顔に手をやると、いつの間にか後ろに立っていた狼男がその手を掴んだ。
「いいのか。外すのはいつでもできるが、それを外せばおまえの姿は人間のままだ。食ってくださいっつってるようなもんだぞ」
それを聞いて、シオは手の力を抜いた。鏡の中には、二本足で直立し、服を着た白狐がいる。まさに化け物の姿だ。これなら街に紛れても人間だとバレそうにはない。促されるまま鏡の前を離れ、部屋のソファーに浅く腰掛けた。隣に狼男が座り、シオが転げそうなほどソファーは深く沈みこんだ。むずむずするので触れてみると、尻には白くふさふさした尻尾が生えていた。ズボンの後ろに空いた穴からその尻尾を外に出した。
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