3人が本棚に入れています
本棚に追加
4
ガロという狼男が住んでいるのは、古く丈夫な二階建ての住居の二階だった。一階と二階にそれぞれ部屋が三つずつある。周囲には似た建物が並び、異形の住人たちが闊歩していた。
ガロは用心棒として生計を立てているのだと、一階に住む住人が教えてくれた。チヅという名の、ひょろ長い逆さまの箒のような身体をした化け物だった。わさわさと緑の髪が茂る穂の部分に目と鼻と口、柄に手足をくっつけた見た目をしている。
「このところ、とかく物騒だからねえ」
「物騒って?」
外に出したたらいで洗濯をするシオは、腕で汗をぬぐいつつチヅを見上げる。この化け物はとかく話好きだった。
「あら、知らないのかい」
言い出したくせに勿体ぶった言い方をする。だが、話好きなこの化け物には忍耐力がなく、すぐに話の続きを口にした。
「ときおり、街に変な格好をしたやつらがいるだろう。妙なものものしい服着てさ」
「ぼくは、よく知らないけど」
チヅが言うには、それは列車の車掌を思わせるピシッとした制服姿に、表情をうかがわせない白い頭の異形らしい。顔の部分には、切れ込みのような細い目と口だけがついているそうだ。
「あいつらは、人狩りだよ」
「ひとかりって?」
「あらら、シオはなんにも知らないねえ」すぐに答えを口にしてくれる。「たまあに、人間が迷い込むことがあるだろう」
シオはぎくりとしたが、それを誤魔化すように手を動かし洗濯を再開した。鈍い化け物は、シオの動揺に気付いていない様子だ。
「やつらは人間を集めてるのさ」
「なんで、そんなことをするの」
「さあ。よく知らないけど、人間は弱いくせに頭が切れるらしいからねえ。食べる以外にも使い道があるんじゃないの」
箒の化け物は、ひひひと不気味な声で笑った。シオは嫌な気分になりながら、シャツを絞った。
最初のコメントを投稿しよう!