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 ガロという狼男が住んでいるのは、古く丈夫な二階建ての住居の二階だった。一階と二階にそれぞれ部屋が三つずつある。周囲には似た建物が並び、異形の住人たちが闊歩していた。  ガロは用心棒として生計を立てているのだと、一階に住む住人が教えてくれた。チヅという名の、ひょろ長い逆さまの箒のような身体をした化け物だった。わさわさと緑の髪が茂る穂の部分に目と鼻と口、柄に手足をくっつけた見た目をしている。 「このところ、とかく物騒だからねえ」 「物騒って?」  外に出したたらいで洗濯をするシオは、腕で汗をぬぐいつつチヅを見上げる。この化け物はとかく話好きだった。 「あら、知らないのかい」  言い出したくせに勿体ぶった言い方をする。だが、話好きなこの化け物には忍耐力がなく、すぐに話の続きを口にした。 「ときおり、街に変な格好をしたやつらがいるだろう。妙なものものしい服着てさ」 「ぼくは、よく知らないけど」  チヅが言うには、それは列車の車掌を思わせるピシッとした制服姿に、表情をうかがわせない白い頭の異形らしい。顔の部分には、切れ込みのような細い目と口だけがついているそうだ。 「あいつらは、人狩りだよ」 「ひとかりって?」 「あらら、シオはなんにも知らないねえ」すぐに答えを口にしてくれる。「たまあに、人間が迷い込むことがあるだろう」  シオはぎくりとしたが、それを誤魔化すように手を動かし洗濯を再開した。鈍い化け物は、シオの動揺に気付いていない様子だ。 「やつらは人間を集めてるのさ」 「なんで、そんなことをするの」 「さあ。よく知らないけど、人間は弱いくせに頭が切れるらしいからねえ。食べる以外にも使い道があるんじゃないの」  箒の化け物は、ひひひと不気味な声で笑った。シオは嫌な気分になりながら、シャツを絞った。
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