儘ならない僕等の肖像

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「一年生のみなさん。じっくり鑑賞できましたでしょうか。いま学んだテクニックを活かして、みなさんには肖像画を描いて頂きます。家族でも友だちでも、もちろん自分をモデルにしても構いません。ぜひ、若さあふれる、生き生きとした色を使って———」  女性顧問の声に表層的な頷きを返しながら、僕は女生徒の横に並んだ。ただ純粋にどんな絵を描いているのか気になったのだ。  そっと身体を傾けてキャンバスをのぞいた瞬間、僕は全身が持っていかれそうになった。  画面には様々な色が載っており、それらがヘラのようなもので削り取られていて、目を凝らすと爪で引っ掻いたような跡もある。少し顔を離すと色が乱舞し、近づけば折り重なり、背景にはまた違う色の断片が見える。  それはまるで長い年月を経た壁のようでもあり、重なった記憶のようでもあり、自分と向き合う精神を現しているようにも思えた。  まるで自分を見つめ、苛立ちを抱え、正気を保つために筆を動かしたみたいだ。  僕の心が小さな感動で震えていた。 「‥‥分かるなあ」  素直な感想は僕の口から漏れて、女生徒が動く気配がする。 「上手いでも下手でもなくて、分かる、なんだね」  ふと、視線を感じて顔を上げると、女生徒と目が合った。大きな杏子型の瞳に動揺する僕が映っている。
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