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「なんか変なこと言ってすみません」
と、正直に謝ると、女生徒が「名前は?」とはっきり訊いてきた。僕は、「一年の新田一生です」と名乗り、女生徒は「鉢嶺さおり、二年、よろしくね」と柔らかな声で言った。窓から差し込む陽射しが、彼女の瞳を強く光らせていた。
僕は彼女から眼を逸らす。
あまり見つめていると瞳が焼け付いてしまいそう、というのが最初の印象だった。
夏の虫でも人間でも、眩い光りを前にすると引き寄せられてしまうんだな、と改めて思う。
暗く険しい道であれば尚更だ。
入学してから三ヶ月の間、僕はスランプに陥っていた。思うように筆が進まず、授業では怒られてばかり、部活動の肖像画に至っては下書きにすら手をつけていない。そうやって苦しんでいるときこそ、光っている人が目についてしまう。僕は気がつくと筆を置いて、キャンバスに向かうさおり先輩を眺めていた。
初めて会った日をきっかけに、なぜか一緒に行動することが増えたけれど、絵を描いているときも、コンビニでジュースを選んでいるときも彼女は輝いていた。この人はどうしてこんなに光って見えるのだろう、と思ったとき、彼女がこちらを向いた。
「私の顔、そんなに面白い?」
「面白い‥‥そう言われてみれば、そうですね」
僕は顎に手をあてて考え込むふりをした。さおり先輩は怒ったように眉を寄せる。もしかしたら、昨日ジャンケンに負けてジュースを奢らせてたことを根に持っているのかもしれない。「冗談ですよ」と答えると、
「肖像画のモデルは決まったの?」
と言いながら、さおり先輩が歩いてきて僕のキャンバスをのぞいた。
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