第十話 バンクと人間の町

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 岩陰に行くと地下への階段があった。 「早く入って!」 「あ、ああ」  地下の階段に降りると、女は何かを呟く。上の方から音がした。と同時に辺りが明るくなる。 「そのまま進んでくれる?」  バンクは言われたとおりに階段を降りていく。そこには廊下が伸びて、部屋が四つに分かれていた。バンクは一番手前の右側の部屋に通される。  ――結構広いな。  バンクが部屋を見渡していると、女は奥にあった棚から布を一枚引っ張ってバンクに渡す。 「全く、災難だったわね。はいこれ、濡れてるでしょ。拭いて」 「あ、ありがとう」 「とりあえず座ったら? 走りすぎて疲れたでしょ?」 「あ、ああ」  女がテーブルの前にある椅子を指さす。バンクは言われたとおり、椅子に座りながら布で体を拭いていった。  ――変な奴だな。  女は棚からカップを、その隣の棚からよくわからない容器のようなものと袋を取り出す。 「コーヒーを入れるわね」  女はそう言って、ポットに火をかける。バンクはその間に部屋を見渡していた。棚が三つ並んでいる。流し台。後ろを振り返ると先程通ってきたドア。 「はい、どうぞ」  女の声がして、バンクはまたテーブルに足を向ける。女はカップをバンクの前に置くとバンクの向かいに座った。 「コーヒーを入れたわ。あなたコーヒーって飲める?」 「コーヒー、って何だ?」 「やだ、コーヒー知らないの? えっと、というか人間の食べ物とか飲み物は口にできるの?」 「それは、大丈夫だと思う。俺の友人がたまに人間に扮して食べ物とか飲み物をもらったことがあるらしい。ずいぶん前の話だが」 「ふーん、それなら大丈夫かな? 飲んでみて」  いたずらっぽい笑みを浮かべてバンクにカップを寄せる女。バンクは初めて触れる人間の飲み物にほんの少し不安を覚えながらおそるおそるカップに口をつける。  バンクは一度視線だけを女に向ける。 「……」 「大丈夫、そのまま飲んでみて」  女の一言に少しずつ、ゆっくりとカップを口へと傾けた。 「! ゴホゴホッ」 「やっだ、大丈夫?」  あまりの苦さにバンクは咳き込む。女は慌ててバンクの隣に行き背中を叩く。  ――大丈夫なわけないだろう! 何てものを飲ませるんだ! 「へー、あなた本当にコーヒー飲んだことないんだ」 「うっ……。ケホッ。お前、よくも俺にこんなもの飲ませやがったな」  横目で介抱する女を睨むバンク。女はくすくす笑いながら言った。 「ふふ、ごめんごめん。でも、あなたやっぱり面白い人ね」 「は?」 「私、リーリア。あなたの名前は?」  突然の自己紹介に戸惑うバンク。だったが、モンスターである自分になんの疑いも見せず人懐っこい笑みを向けるリーリアに対して、バンクは自然と口を開いていた。 「バンク……」 「バンク。うん、あなたに似合っててすごくいい名前」 「そんなこと、初めて言われた……」  先ほどから戸惑うことばかりを言われているせいか、声が小さくなるバンク。 「ね、あなたのことバンクって呼んでもいい? 私のことはリアって呼んで」 「……」  バンクはリアを眺める。  追われているときには気づかなかったが、見た目が青いという以外にもどうやら少しずつ違うところがあるようだ。耳が丸まっている。手の先もそんなに鋭くない。それに。  ――俺より弱そうに見えるのに。肝が据わってるというか、安心感があるというか……。  人間というのはよく分からないなあ、と思いながらリアを見ていた。
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