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第二話 ファスティ国王の後悔
ここは緑豊かな王国フェルメール。一人の兵士が階段を駆け上がり、王座の間に来る。
「国王陛下! 先程、リルコット殿が戻られました! こちらにすぐ来られるとのことです」
「おお、そうか。報告ご苦労」
ファスティ国王は、探し求めてきた宝がようやく手に入る喜びに震えていた。
「国王様、リルコット、ただいま戻りました」
「おお、リルコット。よくぞ戻った。探索ご苦労じゃったな。して、その宝は見つかったのかな?」
「はい、ご依頼の品を遂に見つけて参りました」
「おお、さすがは聡明で勇敢な魔法使いと聞こえ高いリルコットじゃな。よくぞ手に入れてくれた。してその宝はどこじゃ?」
リルコットはマントに隠していた宝箱をその場に置く。
「こちらでございます、国王様」
「むむ、宝箱のまま持ってきたのか。まあよい。この中に入っているのじゃな?」
「入っております。ですがこの箱は開けられません」
国王は大いに驚いた。
「何故じゃ、何故開かんのじゃ」
「鍵がかかっています」
「鍵は手に入れなかったのか?」
「番をしていたモンスターは想像以上の力の持ち主です。鍵を持っていることは分かりましたが、相手から鍵を奪い取ることは難しかったのです」
国王はどんどん目の前の魔法使いに怒りの眼差しを向けていく。
「分かった、お主はワシを馬鹿にしておるな? ワシは宝を手に入れてこいと言ったのじゃ。箱が開かないのでは、ないのと同じ、いや本当にその宝かすら分からないではないか」
「その点は心配ご無用です、王様。透視の魔法で確認しました。ですのでまさしくこれはあなたが求めていた宝ですよ」
国王はさらに憤慨し、持っていた杖の柄をリルコットに向ける。
「ワシは宝箱ではなく、宝が欲しいのじゃ!」
「お言葉ですが王様。私は宝を箱から取り出した状態で持ってくるようにとは言われておりません。王様のご依頼はきちんと果たしたつもりです。……私の言っていることに、間違いはありますか?」
「むうう……」
リルコットはひざまずきながらも鋭い視線を国王に向ける。国王は、誰だこんなとんでもない女を雇ったのはという思いがしたが、確かに言ってはいなかったのでそれ以上は反論できない。
「な、ならば今から鍵を手に入れてくるのじゃ」
「それはご依頼をされるということでよろしいですか? 報酬は上乗せしていただくことになりますが」
「……仕方あるまい」
「それでしたら、その報酬はこちらで決めさせていただけますか?」
「何じゃと?」
国王はいまいましげに視線をリルコットに向ける。
「それは当然でしょう。その宝を手に入れるだけでも相当な苦労でしたから、その鍵を手に入れるとなると、宝と同等かそれ以上の報酬を支払っていただかなくては」
しかしその宝は国をも変える力を持つもの。同等のものなど用意できるはずもなく。
「つまりはお主、手に入ったら自分のものにしようとしているのじゃな」
「仰るとおりです、王様」
「……もうよい! 下がれ!」
「分かりました。ですがその前に報酬を」
国王は階段横にいた兵士に指示し、報酬を持ってこさせる。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
深々と礼をして、緑のマントを翻すリルコット。国王は階段を降りる後ろ姿をしばらく見つめていた。リルコットの姿が完全に見えなくなると、そばにいた大臣に怒りの目を向ける。
「ええい! 何じゃあの女は! 誰が雇った!」
「雇ったのは陛下です」
「むうう」
国王は後悔という字が目の前に浮かんでくる。
「ですから、私の不在中に勝手によそ者を雇うべきではないとあれほどご注意申し上げましたのに」
「しかし聡明で勇敢という噂だったのじゃ……」
「賢いには違いありませんが、頭にずるとか悪がつきます。勇敢というのは、色んなダンジョンに単身で赴くからでしょうね。ですが歴戦の魔法使いというわけではないでしょう、おそらく。そういう噂が一人歩きして憧れの対象になっているだけのことかと」
「むうう、人選ミスじゃったか……」
国王は、この箱をどうやって開けようかと悩んだ。
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