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第三話 リルコットの心配
リルコットは森の奥まで向かう。周りは木ばかり。そこを通り抜けると、霧のかかった場所に出ると、リルコットの前に木の小屋が現れた。
魔法を使って鍵を開けて中に入る。ドアを閉めてもたれかかると、リルコットはそれまで抑えていたものを吐き出すようにクスクス笑い出した。
「……ふふ、あははは!」
「ずいぶんと楽しそうだね」
肩に乗りながら話しかけてくるのは一匹のリス。
「もう、笑いをこらえるのが大変だったわ。あの王様も、ほんっと頭悪いったら」
「君と王様の会話を聞いてたらボクまで腹がよじれるかと思ったよ」
「もうレドアったら、ついてくるなんて聞いてないわよ? 王座の間なんてむず痒くてずっといられないって言ってたのに」
「まあね。でも君が今度の依頼をどんな風に報告するのか気になったものでさ。そしたらまあ何とも酷いこと」
レドアと呼ばれたリスは宙返りすると、人間に変わる。それを見てリルコットは心配した目をレドアに向ける。
「あなた最近変身ばかりしてるけど、大丈夫なの?」
「大丈夫って、何が?」
「変身魔法は体への負担が大きいのよ。知ってるでしょ。戻すときだって……」
「ボクにリスのままでいろって言うの? 君こそ、そろそろ魔法を解いたらどうだい?」
「……」
そう言われてリルコットはマントを外す。途端に金髪は穏やかな空色へと変わり、鏡越しに見えた瞳は赤からエメラルドに変わる。
「やっぱりその方が君って感じがするよ」
そう言ってレドアはリルコットを抱き締めた。リルコットは彼の抱擁を受けながら、はあっと深くため息を吐く。
「お疲れかい、リルコット」
「ここにいるときに、その呼び方はやめて」
「ごめんごめん。でもちょっと気を抜くと、いつだって君の本当の名前を呼びたくなるんだから。君があのシエル王女だと知ったら、あの王様はどんな反応をするんだろうね」
そう言うと、リルコットはキッと顔を強張らせる。レドアは耳元で囁く。
「だから、もう少しの辛抱なんだ。アレを手に入れられれば、ボクらはまた元の生活に戻れる。君もこんな苦労をすることはない」
「本当に、もう少しだけならいいのだけど……。あの宝は結局違っていたし」
「君は優しくて、でも狡猾な人だね。モンスターとは戦わずに宝箱だけ手に入れて王様から報酬はちゃっかりもらっちゃうんだからさ」
「あの宝が本当に私たちの探していたものなら、鍵を力ずくでも奪ってたわ。無意味な戦いをしたくなかっただけよ」
「うん」
リルコットはさらに深くため息を吐き、次は何をしようかと考えていた。
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