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第五話 国王の過去
「てーい!!」
金属音が王座の間に響く。しかし鳴るのは金属音ばかりで箱が切り開かれる様子はない。
「ううむ、やはり今度も無理か……」
「いえ、もう一度やらせてください! せや!!」
兵士が再度剣を振るう。しかし、響き渡るは虚しい金属音だけだ。
「……もうよい、ご苦労だった。下がってよい」
「……失礼します」
兵士は剣を片手に肩を落として階段から降りていった。その様子を見ていた大臣が国王に声をかける。
「陛下、もうやめましょう、今で何人の者が試していると思っているのですか」
「何人じゃ」
「五十一人です」
大臣が淡々とした口調で答えると、国王は深くため息を吐いて王座に深くもたれかかる。
「何がいけないんじゃ?」
「ですから、やはり専用の鍵を手に入れるしかないのでは?」
「その専用の鍵はモンスターが持っておるんじゃろ。それを奪える兵士がおるのか?」
「あの宝を守るようなモンスターですよ。まず無理でしょうね。モンスターは基本的に人間を襲うことはありませんが、悪意ある人間には容赦がないと聞きます。……お、ということは宝を奪ってしまったここにも直に押し寄せるやも……」
途端に国王の顔が硬直した。
「冗談です、陛下」
「そなたの冗談は分かりにくい」
「来たとしても危害を加えるわけではないでしょう。もしモンスターが来たときには宝を素直に返してあげればよいのです」
「しかし、せっかく手に入れた宝を易々と……」
「どちらにしても鍵がなければ開けられませんからねえ……」
大臣は顎に手を当て考える素振りを見せる。国王はふっと軽く息を吐く。
「やはり、あの者に取りにいかせるべきか」
「リルコットに行かせるのですか? それはおやめになった方が。同等の報酬を渡すこともできないでしょう」
「……大臣よ、あの者はあの力を利用すると思うか?」
「分かりませんね。彼女があの宝に潜む力に気づいているのかどうか。しかし、もしそうなら彼女は鍵を手に入れれば自分のものにしたでしょう。先程の件でも、ああもあっさり引き下がるとは思えません」
国王は今日何度目かのため息を吐き、大臣に目を向ける。
「あやつは狡猾じゃが悪い人間ではないと思う。この杖がそう言っている」
国王は自分が持っていた杖の先をトントンと床に打ち付ける。
「それはバーンス王からの……」
「そうじゃ。ワシの数十年来の友人からの贈り物、といえば聞こえはいいが、実際には奪ったも同然じゃろうな」
「シエル王女はきっと陛下を深く恨んでいることでしょうね」
国王は深く頷き、杖を両手で抱える。
「だからこそ、あの宝が必要なのじゃ。シエル王女も今は行方不明だと聞く。他に手立てがないのであるなら、手段を選んではおれんのじゃ」
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