第四章:声の主

35/37
前へ
/145ページ
次へ
 「他の人に出来ないことが出来るのは凄い、 って言ってくれたのはソラだよ。わたしね、 ソラの力もきっと、人を傷つけるためだけの ものじゃないと思うんだ。だからね、もうあ んなことしちゃダメだよ」  「……うん」  にっこり笑ってそう言った桃々に思わず涙 ぐむと、「もう泣かないの」と莉都が白い歯 を見せる。その莉都に頷くとようやく場の空 気が和み、それぞれがほっとしたような表情 を浮かべた。  けれど、はじめ君が口火を切るとみんなの 顔に緊張が走る。  「……それにしても、向坂さんがアレルバ の関係者だったとはな。すっかりキッズスマ イルの職員と信じ込んでたけど、ヤバいよな」  はじめ君が声のトーンを落としてそう言う と、莉都は天井を仰ぎ人差し指を顎にあてた。  「あの人、どうやってソラの居場所を突き 止めたんだろう?それに、ソラの顔を見ても 顔色一つ変えずに颯爽と帰っちゃったけど、 何しに来たのかな?まさか、元気にしてるか 様子を見に来ただけ、ってことはないよね?」  「あたりまえだろ!ソラを連れ戻しに来た に決まってんじゃんか。兵器としてアメリカ に売ろうとしてるような奴らだぞ。人権無視 して、人体実験してるような酷い奴らだぞっ」  「そうなんだけど。ソラが記憶を失くして なかったら顔を見た途端に正体バレちゃうし、 もしかしたら逃げられちゃったかも知れない んだよ?そんなリスクを犯してまで来たのに、 どうして何もしないで帰っちゃったのかな?」  「そう言われてみれば……確かにそうだな」  的を射た莉都の発言に、論平はトーンダウ ンしてしまう。僕も向坂先生の意図がわから ず、腕を組み、首を捻った。円を描くように 座っていた僕たちは、しばし考え込む。する と何か思い当たることがあったのだろう。  はじめ君が「もしかしたら」と口を開いた。  「ソラが記憶を失くしていることを承知で、 ここに来たのかも知れないな」  「それ、どういうこと!?」  莉都が目を丸くすると、はじめ君は片眉を 上げる。  「莉都は知らないだろうけど、和達萩生(わだちしゅう)は 警察庁長官、和達勲(わだちいさお)の甥なんだ。そのパイプ を使って警察のデータベースから情報を入手 してるとしたら、何もかも説明がつくと思わ ないか?ソラが記憶を失くしてることも、こ の家にいることも、彼らはいとも簡単に知る ことが出来たんだ。でも民間人が関わってし まった以上、安易に手を出すことは出来ない。 そこでまずは偵察役として向坂さんがやって きたってワケ」  「なるほど、そういうことか!」  はじめ君の見解を聞いて、莉都が得心する。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加