第四章:声の主

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 警察の上層部に和達博士の身内がいること を初めて知った僕は、戸惑いを隠せなかった。 もし、博士が持っていたピストルがその筋か ら流れてきた物だったとしたら。そう思うと 事態の深刻さに身が竦んでしまう。警察に助 けを求めれば何とかなるかも……という淡い 期待を打ち砕かれた気分だった。  僕と同じことを思ったのだろう。  論平が引き攣った顔で言った。  「やっべぇじゃん。相手は警察組織を味方 につけた、巨大企業ってことかよ」  「まあ、(くだん)の件に和達勲が暗躍してること は間違いないだろうな。公権力バンザイだ」  「そんな、どうしたらいいの?お巡りさん に相談しても、その情報がアレルバに筒抜け じゃどうしょもないじゃん」  「どっちにしろ、警察に相談なんて出来な いだろ?ソラが雷を操るヴォルトキネシスで、 長い間アレルバの研究所に幽閉されてた挙句、 いまは組織に追われてますなんてベタな映画 みたいな話、警察が信じると思うか?揶揄う なって説教されて門前払いだ」  はじめ君が両方の手の平を天井に向け、肩 を竦める。まさにお手上げというその仕草に、 誰もが閉口した。  僕はみんなの顔を見つめ、拳を握り締める。  冷静に考えれば、巨大過ぎる組織と権力を 前に、何の力も持たない僕らが立ち向かえる わけがなかったのだ。これ以上、彼らを巻き 込んじゃいけない。  僕がどうなろうと、みんなを危険な目に合 わせたくなかった。  「あの、僕、やっぱりここを出るよ。これ 以上みんなに迷惑掛けられないし、僕のせい で月見里家の人たちに何かあったら耐えられ ないし」  思い詰めた顔でそう言うと、一同の視線が 僕に集中する。向かいに座る莉都が目を見開 き、ぶんぶんと首を振った。  「そんなの、迷惑とか思うわけないじゃん。 ソラのこと、みんな大事に想ってるんだよ? 涙が出るくらい、ソラが酷いことされたのが 悔しいのに。もっと、わたしたちを頼ってよ。 みんなで力を合わせればきっと何とかなるよ」  その言葉に、僕がくしゃりと顔を歪めると、 論平がわかりやすくため息を吐く。  「ま、乗り掛かった舟っつーか。このまま お前を放り出したりしたら、助けた意味がな くなるからな。頼りねぇかもだけど、出てく とか言うなよ。一人でいるより断然マシだろ」  「……ありがとう、論平」  ぶっきら棒なのにどこかやさしい物言いに、 僕は涙を零しながら頷く。すると、ポンと肩 に温かな手がのった。はじめ君の大きな手だ。  「そういうことだから、に乗ったつも りで一緒に策を練ろうか」  にいっ、と笑って冗談交じりに言ったはじ め君に僕は相好を崩す。流れてしまった涙を 手の甲で拭い頷くと、はじめ君は腕を組んだ。
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