第四章:声の主

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 「取り敢えず、明後日にはグアムで羽伸ば してる父さんたちが帰ってくるから、それま では大人しく情報収集に努めよう」  「情報収集ってなに調べるの?」  兄の顔を見上げ、桃々が問い掛ける。  「記憶にないみたいだけど、ソラはアレル バの奴らに親元から連れ去られたはずなんだ。 だから十四年前に起きた誘拐事件を調べれば、 何か手掛かりが掴めるかも知れないだろ?で、 父さんたちが帰って来たら事の次第を話して、 人身取引の被害者を救済するNPO団体に連絡 してもらう。公権力があてにならないなら 民間のサポートを上手く利用するしかない。 性的搾取や強制労働の被害者が救済対象みた いだけど、相談してみる価値はあると思うよ」  「人身取引を扱うNPO団体があるとかよく 知ってんな。そんなの初めて聞いた」  はじめ君の提案に論平が目を丸くする。  「ネットサーフィンが趣味だからな。俺の 頭には無駄な情報がいっぱい詰まってるんだ」  トントン、と指先で頭を突いてそう言うと 莉都が身を乗り出した。  「人身取引の救済サポートもだけど、それ と並行してソラの戸籍と住民票も作ってもら おうよ。すぐに両親が見つかるかわかんない し、保険証を発行してもらって早く病院に連 れてかないと、心配だし」  ちら、と僕の顔を覗く莉都に、はじめ君が 息をつく。  「そうだな。キッズスマイルにまでアレル バの手が及んでいることを思うと不安だけど。 悪性の髄膜腫じゃ、そんな悠長なこと言って らんないよな。そのことも父さんに話して動 いてもらおう。とにかく、いまは出来ること をしながら敵の出方を待つしかない。相手は、 犯罪に手を染めることも厭わない巨大組織だ。 いざというとき悪足掻きが出来るよう、少し でも布石を打っておこう」  はじめ君がみんなを見回すと、それぞれが 緊張した顔で頷き合う。僕は、僕のために志 をひとつにしてくれるみんなの強さとやさし さに、胸を熱くしていた。  すると突然、論平が僕を向く。  「そういや肝心なこと聞いてなかったけど。 お前、名前は思い出したのか?過去の事件を 調べるにしたって、本名わかってた方が情報 もヒットしやすいだろ」  「あ!」  もっとも過ぎる論平の指摘に、みんなが声 を上げる。僕はその反応に視線を泳がせつつ、 ぼそりと口にした。  「……七番」  「は?」  「僕の名前、七番だと思う」  訊き返してきた論平にそう答えると、瞬時 に場の空気が凍った。
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