第五章:僕の名は

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 「確かに、訳もなくソラがそんなことする はずないな。パンダを押し入れに隠そうと思 うような状況に、追いやられたのかも。桃々、 ソラがいま何を感じてるかわかるか?何でも いい。ヒントになるようなことなら、何でも」  その言葉にみんなが桃々の顔を覗く。  すると桃々は複雑な顔で首を振った。  「それがね、何も感じないの。ソラがいな いってわかって、すぐにソラの気持ちを探し てみたんだけど。真っ暗で、心を感じなくて」  真っ暗ということはソラの意識がないとい うことだろうか?不吉なことを連想せざるを 得ない桃々の言葉にわたしは動揺してしまう。  「やっぱり学校休めば良かった。わたしが 側についてれば、こんなことにならなかった」  悔恨の念に苛まれ、手紙をくしゃりと握る。  「いまさらそんなこと悔やんだって仕方な いだろ!ソラが自分から出てったんじゃない なら、助けてやんないと。何か手掛かりはな いのかよ!」  そう声を上げると、論平はイライラしなが らダイニングテーブルの周りを歩き回る。と、 何かを踏んだのだろうか。ずるっと滑り両手 をバタつかせた。  「うわっ!何だコレ、あぶねーなっ!何で 床に落ちてんだよ」  言いながら論平が拾い上げたのは、新聞に 折り込まれていたスーパーの黄色いチラシで。 バンとテーブルに叩きつけられたそれを見た わたしは、違和感を覚える。  他のチラシは折り畳まれた新聞にキレイに 挟んであるのに、なぜ一枚だけ床に落ちてい たのだろう?朝、桃々が新聞を取りに行って テーブルに置いたまま、誰も新聞を広げては いなかった。  「……もしかして」  わたしは黄色いチラシを手に取ると急速冷 凍庫の前に立つ。そして蓋を開き、チラシを 中に入れた。  「何か見つけたのか?」  その行動に何かを察したはじめ君が、背後 から覗き込む。わたしは振り返って、頷いた。  「もしかしたらこの紙にソラがメッセージ を残してるかも。前にね、書いた文字が消え るボールペンをソラにあげたことがあるの」  「それって、莉都がいつも秘密の手紙とか いって友だちとやり取りしてるやつか?」  「そう。マイナス五十度まで急速冷凍出来 るこの冷凍庫なら、消した字が十五分もすれ ば薄っすら浮き出てくると思う」  「なるほど。それなら万が一このチラシが 敵の目に触れても、メッセージに気付かれな いってわけだ。可能性は十二分にあるな」  腕を組み大きく頷いたはじめ君に、論平と 桃々も集まってくる。わたしたちは時計の針 が回るのをいまかいまかと待ちながら、冷凍 庫に張り付いた。  「もういいんじゃないか?十四分経ったぞ」  焦れったそうに論平が身を乗り出して言う ので、わたしは唾を呑み、頷く。くっきり浮 き出てなくても読めればいいのだ。わたしは 冷凍庫の蓋を開けると、チラシを取り出した。
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