第五章:僕の名は

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 「あ!」  手に取ったチラシを見た途端、わたしは声 を上げる。そこには薄っすらと、けれど大き な文字でこう書かれていた。  『タスケテ アレルバ ソラ』  たったそれだけの短いメッセージ。  それでも、ソラがわたしたちに残したメッ セージであることは間違いない。タスケテと いうソラの想いに涙を滲ませると、わたしは みんなを見つめた。  「これで確定だな。ソラはアレルバの連中 に連れ去られたんだ。あの手紙はソラが自主 的に家を出たと思わせるための、裏工作って ワケだ」  「どうする?助けに行くよな?」  「もちろん」  それが、無謀な決断だとわかっていながら 力強く頷いて見せたはじめ君に、論平は両手 の拳を握り締める。わたしも桃々と顔を見合 わせると、決意を固めた。  「とにかく、作戦会議だ。俺たちの部屋で 作戦を練ろう」  そう言うなり、部屋を出て階段を上り始め たはじめ君にみんな慌ててついてゆく。  「作戦って、何か妙案でもあるの?相手は 犯罪も厭わない巨大企業なんだよ?」  兄の言葉をそのまま借りたわたしに、はじ め君は「まあな」と肩を竦めて見せパソコン デスクに座る。そして、PCの電源を入れると とんでもないことを(のたま)った。  「誘拐に幽閉、それに人体実験。凶悪犯罪 を平然とやってのけるような奴らに、正攻法 じゃ太刀打ちできない。だからここは、天才 ハッカーの『天馬(てんば)』様が一肌脱いでやるよ」  「はっ?天馬って、何のこと?意味わかん ないんだけど」  突然、ハッカーだの天馬だのと意味不明の ことを言い始めた兄にきょとんとしてしまう。 すると、はじめ君は自分を指差し、涼しい顔 で言った。  「だからぁ、いま(ちまた)で話題になってる天才 ハッカーの天馬って俺のことなの。動画村の 摘発で新聞にも載っただろ?あれやったの俺」  「ええーーーーーーーーっ!!!!」  カーテンが閉め切られた部屋に、わたしの 咆哮が木霊する。その声に顔を顰め、論平と 桃々は両手で耳を塞いだ。  「うっ、うそっ!!はじめ君があの天馬な のっ!?信じらんない!!」  声をひっくり返して言ったわたしに、論平 が肩を竦める。  「嘘じゃねぇよ。目の前にいるはじめ君は オレたちの兄貴で、天才ハッカーの天馬なの」  「天馬なのって、論平、もしかして知って たの!?」  「あたりまえだろ?同じ部屋に暮らしてん だぞ。見ようと思わなくても見えちゃうこと だってあるし」  別にどうということはないといった感じで、 論平がそう言ってのける。わたしは驚愕に目 を見開いたまま、隣で素知らぬ顔をしている 妹に訊いた。
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