第五章:僕の名は

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 「まさか、桃々も?」  「うん。本人の口から聞いたわけじゃない けど。もしかしたらそうかな、とは思ってた」  「じゃあ、何で教えてくれなかったのよ? わたしだけ除け者扱いされてるみたいじゃん」  不貞腐れた顔で言うと、はじめ君がその場 を取り成すように言った。  「別に、莉都を除け者になんかしてないよ。 敢えて公言するようなことじゃないし、論平 たちはただ単に察してくれただけ。それより 作戦会議だ。みんな集まって」  はじめ君が手招きするのでパソコンを覗き 込むようにして、後ろに立つ。画面を見れば、 どこかの建物の見取り図のようなものが表示 されている。  「不測の事態に備えて、昨日のうちに攻撃 対象の情報を収集しておいた」  「攻撃対象?」  「ハッキングの手順は大まかに言うと事前 準備、攻撃、後処理の三工程なんだ。だから まずは攻撃の役に立つ情報を集めまくる。企 業が投資やネットワークの利用をする際に公 開する情報には、攻撃者にとって有益な情報 が溢れててね。その情報を整理してるうちに アレルバの建物の扉はすべて、ソフトウェア ライトというメーカーのデバイスで制御され てることがわかった」  昨日言っていた『情報収集に努める』とは このことだったのかと、妙に納得しつつ頷く。  「建物の扉を制御してるメーカーがわかる と、どんなことが出来るんだ?」  論平が身を乗り出すと、はじめ君は不敵な 笑みを浮かべた。  「そのデバイスがサーチエンジンのネット ワークに送ってるメッセージを調査したら、 すべてのデバイスで利用されてる暗号キーを 発見した。つまり、いまはキーカード無しで スマートロックを解錠していつでも建物に侵 入出来る状態にある」  「すっげぇー!!」  目をキラキラさせながら論平がガッツポー ズをする。それって、完全に犯罪だよね?と 突っ込みたい衝動を抑えつつ、わたしは先を 促した。  「じゃあわたしたちは何をすればいいの? ソラを助けるためには誰かが建物に侵入しな きゃならないよね?」  「その通り。見取り図を見ながら俺がここ から誘導するから、論平と莉都の二人に動い て欲しいんだ。正面玄関は守衛棟が設けられ てて、常に守衛が監視してる。だから五メー トル近い金網があるけど、東側の裏口から侵 入するって算段なんだけど……出来そうか?」  「出来るも何も、やらなきゃソラが売り飛 ばされちゃうだろ」  そう口にした論平を向けば、いつの間にか あのこん棒を手に仁王立ちしている。その姿 に一抹の不安を抱きながら、わたしは頷いた。
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