第五章:僕の名は

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 「……やっぱり、あなただったんですね。 あなたが、僕のお父さんとお母さんを殺した。 僕を拉致して、この力を悪用するために僕か ら何もかも奪ったんだ」  憎しみを込めてそう言った僕に、それでも 博士は悪びれることなく下卑た笑みを向ける。  「確かにわたしが君にしたことは非人道的 なことかも知れないが、あの日以来、能力を 持て余すことなく君が過ごしてこられたのは わたしのお陰でもあるんだ。あの時、恐怖で 泣き喚いた瞬間にアビリティーフィールド(能力の領域)が 満たされ君の力は覚醒した。だが、その能力 は実に不安定で巨大な落雷を引き起こすこと もあれば、晴天のまま何も起こらないことも しばしばだった。そんな不完全な能力をサイ コトロニクス兵器の技術でコントロールでき るわたしと君が出会えたのは奇跡だと思わな いか?君のヴォルトキネシスの力を最大限に 引き出せば、世界を震撼させることが出来る。 ミサイルはレーダーに感知され迎撃される恐 れがあるが、生きた電磁パルス爆弾である君 は世界中いつでもどこでも攻撃出来るのだか らね。まさに君は、世界最凶の兵器なんだよ」  目をギラつかせ、悦に浸る博士に僕は閉口 する。  この人は、僕に心があると思ってないんだ。 僕は血の通った人間で、親を奪われれば悲し くて、こんな能力なんか持って生まれたくな かったこともわからない。この人にとって僕 は世界を破壊するためだけの兵器で、この力 で誰かが傷つけば僕の心が引き裂かれること もわからない。――考えようとすら、しない。  そのことが恐ろしくて、悲しかった。  我欲のために、人が人として生きる権利を 踏み躙るこの人が、憎かった。  「僕は兵器じゃない。人間だ!!」  込み上げる感情に声を震わせながら、僕は ベッドのヘッドボードに置いてあった時計を 掴み投げ付ける。宙を舞った時計は咄嗟に顔 を庇った博士の肘にあたり、コン、コン、と 硬い音を立てて床を転がった。  「……小賢しい真似をしてくれるね。どう やら君は自分の立場がわかっていないようだ」  続けて分厚い本を投げようと手に取った僕 を睨み付けると、博士が懐から何か取り出す。 その仕草にはっと息を呑み、向坂先生が声を 上げた。  「待ってください!!」  僕が先生を向いた瞬間、ザラザラした何か に頭の中を掻き回されるような不快感に襲わ れ、僕は手にしていた本を落としてしまう。 意識が朦朧として膝を付くのと同時に先生が ベッドを飛び越え、倒れそうになる僕を支え てくれた。
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