第五章:僕の名は

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 「……つっ!!」  強制的に思考を止められるような嫌な感覚 に顔を歪め、頭を抱える僕の耳に勝ち誇った 声が聞こえる。  「だから、わたしには逆らえないと言った だろう。前頭葉に流している電磁波を最大に 引き上げたんだ。たったこれだけの操作で君 は操り人形のように従順になる。母親に会い たいと泣くことも、帰りたいと駄々をこねる こともない無抵抗な子ども。こんな使い勝手 の良いモルモットが他にいるだろうか!」  くつくつと嗤い声を上げる博士を睨んだの は、僕だけじゃなかった。僕の肩を掴む手に 力がこもり、向坂先生が歯噛みする。その顔 が見えたわけじゃないけど、僕と同じ目をし ていることはわかる。  絶対的な支配者を前に成す術もないまま、 僕たちは高らかに嗤う和達博士を睨み付けた。 ――その時だった。  『なっ、何だお前たちはっ!!』  不意にそんな喚き声がドアの外から聞こえ たかと思うと、続けて聞こえるはずのない人 たちの声が耳に飛び込んでくる。  『論平、気を付けて!!』  『おう、任せとけっ!!』  まさか、そんな。空耳かと思いながら目を 見開きドアを凝視していると、その向こうか ら人を殴るような硬い音や、呻き声が聞こえ てきた。やがて、バタッ、と音がして静かに なったかと思うと「ピピッ」と機械音が鳴り、 開くはずのない重い扉が開く。緊張に鼓動を 早くしながら開く扉をじっと見つめていると、 こん棒を手にした論平と莉都が部屋に入って 来た。  「ソラっ、助けに来たぞ!!」  「良かった!!ここにいた!」  僕の顔を見るなり威勢よくそう言った論平 と満面の笑みを浮かべる莉都に、僕は思わず ぽろりと涙を零してしまう。まさかこんな危 険を冒してまで助けに来てくれるなんて…… 想像もしてなかった。  「……莉都、論平。どうして」  もう二度と会えないと諦めていた二人の顔 を見てそう呟いた僕に、論平がドヤ顔をする。  「お前を見捨てたら助けた意味がなくなる って言ったろ」  「そうだよ。それに『タスケテ』ってメッ セージ残してくれたじゃん。ソラがわたした ちを信じて頼ってくれたのに、このまま引き 下がれるわけないよ」  そう言って論平と笑みを交わし、二人が僕 に歩み寄ろうとする。けれど歩み寄ろうとし たその時、博士の低い声がして、二人の足が ピタリと止まった。  「やれやれ、こんな子どもに易々と侵入を 許すとは。この建物のセキュリティーはただ のお飾りだったようだね」  抑揚のない声で言うと博士は息をつき、首 を振る。感動の再会に気を取られ博士の存在 に気付いていなかったらしい二人は、途端に 顔色を変えた。  「マジか。ラスボスいるならいるって早く 言えよ」  「わたしも気付かなかったんだって。大人 しく椅子に座ってるから人形かと思った!!」  そんなわけないだろ、と突っ込みを入れる 論平に莉都が眉を寄せる。博士はそのやり取 りに肩を竦めると、恐ろしいことを口にした。
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