第五章:僕の名は

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 「立て、柊弥!オレが右側に立つからお前 は左側を支えるんだ。二人で担いで外に連れ 出すぞ!」  「でもっ、こんなに血が出てるのに動かし て大丈夫かな」  泣きながらか細い声で言うと論平が怒鳴る。  「だから急いで連れ出すんだろーが!いつ までも泣いてねーで、しゃんとしろ!!助け たいのか助けたくないのか、どっちなんだ!」  「助けたいよっ!!」  「じゃあ立てっ!!行くぞ!!」  論平の叱咤激動に口を引き結び、涙を拭う と、僕は腕を首に回し先生の肩を抱き上げる。 意識のない体は重くて、歩くたびに赤い染み が広がる気がして不安だったけれど、莉都が 先頭を歩き暗闇を照らしてくれたので僕は歯 を食いしばって歩を進めた。  ところが、観音開きの扉を押し開き先に階 段を下り始めた莉都があわあわしながら僕た ちを振り返る。  「……ちょっ、待った。やばいかもっ!!」  何がどうヤバイのか、その理由は訊かなく てもすぐにわかった。バタバタと大勢の足音 が近づいてきたかと思うと、僕たちは階段の 途中で真っ黒なヘルメットと防護服に身を包 んだ人たちに囲まれてしまった。  「マジか」  敵か味方かわからない大群に論平が呟くと、 ずらりと並ぶ防護盾を割って、スーツを着た 厳めしい顔つきの男性が僕に近づいて来る。  「君が如月柊弥君だね」  「……は、はいっ」  「後はこちらですべて預かる。永江のこと も心配は要らない。外に救急車が待機してる。 君たちはこのまま家へ帰りなさい」  「え、でもっ」  「我々は永江の出動要請を受けここに来た。 和達の身柄もいまから確保する。だから安心 して君たちは家へ帰りなさい」  先生がこの人たちを呼んだ?  その言葉を信じていいのかわからなかった けど、救急車が待機しているならすぐに先生 を助けて欲しかった。僕は莉都と論平と視線 を交わし、先生をその人たちに託す。  「先生っ!!」  運ばれて来た担架に乗せられる先生を見て 縋るように僕が叫ぶと、先ほどの男性が振り 返り一度だけ頷いたのだった。
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