第六章:この空の下で

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 「いつか必ず二人を追い駆ける。その気持 ちに嘘はなかった。だけど、彼女と過ごした 時間はそれが最後になってしまった」  「……僕の能力が覚醒してしまったんだね」  ぽつりと呟くように言うと先生は頷き、拳 を握り締める。  「あの日、あの公園で何があったかは和達 の口から語られた通りだ。隣接するショッピ ングモールで買い物をしていて蓮華がちょっ と目を離した隙に、君は一人で公園に行って しまった。君がいないことに気付き、慌てて 探し回った蓮華が目にしたのは君が泣き喚い た瞬間、晴天に走った巨大な稲妻だった。そ の光景を目の当たりにした蓮華は、すべてを 察したんだ。自分の息子は電気に干渉できる だけでなく、雷を操ることができる異能力者 だということを。僕がそのことを知らされた のは彼女からの電話だった」  『通電火災の原因となったあの落雷を引き 起こしたのは、柊弥なの。柊弥がやったのよ』  「まさか。偶然だろう?たまたま柊弥君が 泣いたタイミングで雷が落ちた。ただそれだ けのことじゃないのか?」  『いいえ、違う。わかるのよ、母親だから。 あの子が泣き喚いた瞬間、うちに秘めていた 異能力が覚醒したんだわ。いつかこんな日が 来るんじゃないかって、心のどこかで思って たの。思っていながら何も出来なかったのよ。 出来るだけ早く、あの子を連れて逃げなきゃ。 柊弥の能力が世間に知れたら必ず迫害されて しまうわ。社会に害をもたらす危険な存在と して捕まってしまうかも』  「逃げるって、いったい誰が柊弥君を捕ま えるっていうんだ。落ち着けよ。君は元刑事 だろう?もう少し冷静になれ」  『刑事。そうね、己の正義を振りかざして ざんざん組織の裏金を糾弾した、元刑事だわ。 なのに自分の息子の立場が危うくなった途端、 手の平返して逃げ出そうとしてる。現金よね』  顔は見えなかったが、自嘲の笑みを浮かべ ていることはわかった。母親なら当然だと口 にすると、彼女は『ありがとう』と言って電 話を切ったが。その時の僕は、彼女の息子が 異能力者だということを、まだ信じ切れずに いた。  「だがそれからひと月後、父親の元に預け られていた君は父親と共に忽然と姿を消した。 息子を迎えに行きそのことに気付いた蓮華は すぐに警察に届け出たが、警察は捜査に踏み 切らなかったんだ」  「え、どうして?」  僕が眉を顰めると先生は苦し気に息を吐く。  「当時、蓮華は離婚調停中で親権を争って いた。だから警察は二人の失踪を『夫による 連れ去り』と決めつけ、民事不介入を理由に 捜査を拒否したんだ。なのに、蓮華がマンシ ョンの防犯カメラを確認したいと管理人の元 を訪ねると、なぜか失踪の翌日に刑事が現れ、 録画したテープは回収されたと聞かされた」  「じゃあ、警察が捜査をしてくれなかった のって」
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