第六章:この空の下で

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 「おそらく、和達勲が根回しをしていたん だろう。この失踪には警察組織の人間が関わ っている。そう確信した蓮華は別の方向から 独自に情報を集めた。あの日覚醒した息子の 異能力が失踪に関係していると思った彼女は、 そよかぜプラザ内にあるドーナツショップの 店員からアレルバが落雷制御技術のイベント をしていたという情報を引き出したんだ。 そのことをヒントにネットで情報を検索して みれば和達勲の甥である和達萩生が、精神工 学兵器の第一人者であることを知る。論文を 読み和達が犯人だと悟った彼女は息子を返せ と何度も彼に詰め寄った。証拠はなかったが 息子は必ずこの研究所のどこかにいる。そう 信じて疑わなかったよ」  「僕を助けるために、たった一人でお母さ んは組織に立ち向かってくれたんだね。僕が アレルバにいるって、わかってたんだ」  お母さんは必死に僕のことを探してくれて いた。そう思うだけで、ツンと鼻先が痛んだ。 ――僕は愛されていた。  そのことを知った胸が、焦げるように熱い。  すん、と鼻を啜り、泣きそうな笑みを浮か べると、先生はなぜか俯いてしまう。  「当時、僕は防諜作戦にあたっていてね。 どうしても蓮華の元に駆け付けることが出来 なかった。僕が戻るまで待つように諭したが、 蓮華は一秒も待てないと言って聞かなかった。 それから一週間後、僕の携帯にメッセージを 残した彼女は、そのまま……」  そこで言葉を途切った先生を僕は覗き見る。  きつく口を引き結んでいる横顔には苦悶の 色が滲んでいる。  「……和達に、殺されてしまったんだね」  先生が口に出来ない言葉を代わりに僕が言 うと、彼は大きく息を吐き頷いた。  「これはあくまで僕の推測であって証拠は ないが、君のことをダシに蓮華を呼び出した 和達は彼女に睡眠薬を盛り、練炭自殺に見せ 掛けるため車内に閉じ込めたんだろう。ドア の隙間に目張りをし、途中で目が覚めても逃 げられないよう後部座席のドアにチャイルド ロックを施し、練炭に火を放った。和達自身 はエンジンを切ったあと、運転席の窓から外 に出たんだ。運転席側のパワーウィンドウは エンジンを切ったあとも三十秒ほどは窓の開 け閉めやサイドミラーの格納が出来るように なっている。その仕様を知っていた和達は車 内から抜け出し、外からスマートキーで窓を 閉めた。そしてそのスマートキーは和達勲の 息が掛った捜査員が、通報で駆け付けた際に こっそり後部座席の下に戻した。マッチ箱を 持ち帰るという和達のミスで完全犯罪が崩れ たかに見えたが、仮に遺体を司法解剖に回さ れたとしても不審な点は見つからない」
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