第六章:この空の下で

8/16
前へ
/145ページ
次へ
 「サイコキネシスにテレキネシス。世界に はさまざまな異能力者がいて彼らは軍事的価 値の高い人材として常に搾取されてる。だが その事実を掴んでいても鉄壁の諜報部隊を前 に、どの国もアストラル社を検挙できないま ま、密かに戦火の種は蒔かれ続けた。そこに、 ヴォルトキネシスである君が現れた。軍事作 戦においてヴォルトキネシスが活躍できる場 は広く、利用価値が高い。君を手に入れたア レルバを監視すれば必ずアストラル社が喰い つくと上は踏んだ」  そして公安の狙い通りアストラル社は僕の 買収に乗り出した。けれどその矢先に僕の脳 に腫瘍が見つかり、取引は先延ばしになって しまったのだ。さらに、僕のクローンを作成 するため冷凍保存されている骨髄が見つから ず、先生は一人焦燥感にかられていたという。  倫理的観点からクローン人間の産生を禁止 する法案が世界的に広がっていたが、和達は 規制法案の網の目をくぐり、僕を産生してく れる組織を探していたのだ。兵器としての価 値が百億を超える僕を増やすことが出来れば 利益は二倍にも三倍にも膨らむし、仮に僕が 命を落としたとしても代替品がいる。  和達は協力してくれる組織を躍起になって 探し、ついにイタリアの科学アカデミーと契 約を結んでいたのだった。  「君の細胞が科学アカデミーの手に渡って しまったらと焦っていたが、思いがけず非常 電源装置まで破壊してくれたお陰で助かった。 冷却機能を失ったことで採取してあった骨髄 が使えなくなったんだ。これで任務の一つは 無事完遂できた」  そう言って微笑を向けた先生に、僕は複雑 な笑みを浮かべる。  「でも結局、アストラル社に捕らわれてる 異能力者たちを解放することは出来なかった。 この十年が無駄になってしまったね」  「確かに捜査は振り出しに戻ってしまった が、組織の一斉検挙のためとはいえこれ以上 君を犠牲にしたくなかった僕にとっては干天 の慈雨だったんだ。それに、和達から自供を 引き出し身柄を確保することも出来た。僕が していた腕時計はボイスレコーダー機能を搭 載しててね。その音声は参事官の携帯に直接 届くと同時に、緊急出動を知らせるアラーム にもなってる」  「あっ」  僕は時間を見ながら先生が何げなく腕時計 に触れていたことを思い出す。  確か和達が部屋に入って来てすぐ、真実を 語り出す直前だった。  「まさか自分の話しを公安の上層部が聞い ていると思っていなかった和達は、何もかも 洗いざらい吐いてくれた。殺人に時効はない。 十四年前に彼らが犯した誘拐殺人事件の証拠 はないが、この自供があれば起訴に持ち込め るだろう。君の担当医も家族を海外に逃がす という条件と引き換えに、自供を始めたしね」
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加