第六章:この空の下で

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 「でもその前に手術を受けるんだ。脳腫瘍 と一緒に、脳に埋め込まれた電極を取り除く 手術を受ける。いま濱路参事官が必死に医療 スタッフを集めてる。費用も何もかも公安で 責任を持つから、安心して受けて欲しい」  「……でも、そんなことしたら僕」  「大丈夫、きっと何とかなるよ。この間初 めて力を使ってみて何も気付かなかったか?」  「気付くって、何を?」  「マインドコントロールを失った君は確か に能力を使い落雷を引き起こしたが、その被 害は広範囲に渡ってインフラを破壊するもの じゃなかった。建物内の電子機器や非常電源 は破壊されたが、停電を起こした地域はさほ ど広くない」  僕はこれ以上ないほどに目を見開く。  「じゃあ」  「君自身の力だけでは数百キロに渡る地域 を、壊滅させることは出来ないということだ。 そのことを知った和達は君の脳に電極を埋め 込み、力を引き出す実験を繰り返した。だが 電磁パルス爆弾と同等の破壊力を引き出すの に十数年も掛かったんだ。君が失神してしま うほど強力な電磁波を送らなければ、兵器と しては使い物にならない。だから電極を取り 除いて能力を制御する訓練をすれば、きっと 普通に暮らせるよ」  「……普通に暮らせる。僕が……本当に?」  「ああ、僕はそう信じてる。だから手術を 受けて元気になったら、静かに暮らせる場所 で訓練をしよう。万が一能力が暴走したとし ても、他の住民に被害が及ばないところでね」  僕はじっと先生を見つめる。  手術を受けて、先生と二人で静かな場所へ。  その意味を考えた脳裏に、ふわっ、と莉都 の顔が浮かぶ。けれど、このまま傍にいれば 必ず迷惑を掛けてしまうことを思えば、僕の わがままで彼女への想いにしがみ付くことは 出来なかった。  考え込んだまま声を発しない僕に、先生が ふと寂しげな笑みを浮かべる。  「もし、僕と一緒にいるのが嫌だったら誰 か別の捜査員を紹介することも出来る。十年 も傍にいながら助けられなかった僕を許せな いなら……」  そう言って目を伏せてしまった先生に僕は あの瞬間を思い出す。  形質細胞をイタリアに送るという話を言い ()したあの時、もしかしたら先生は和達が トリガーを引く気配に気付いたのではないか? でも、自分が動けば僕に弾が当たってしまう。 一瞬のうちにそう判断した先生は、だから微 動だに出来なかった。そして、銃弾に倒れた。 ――だとしたら。  俯いたまま答えを待つ先生に笑みを浮かべ ると、僕は何の脈絡もなく訊いた。
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