第六章:この空の下で

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 さまざまな思い出を胸に僕は深く息を吸う。  そしてみんなの顔を見つめると、にっこり と笑みを浮かべた。  「長い間、本当にお世話になりました。僕、 迷惑掛けてばかりで、何も返せなかったけど。 ここでみんなと過ごした時間は僕の人生の中 で一番輝いてて、楽しくて、だから一生忘れ ません。やさしくしてくれて……ありがとう」  溢れる想いに言葉を詰まらせ僕は深く頭を 下げる。昨夜、ベッドの中で考えた言葉の半 分も上手く伝えられなくて、もどかしさに唇 を噛み締めると、ふと、コジさんの声がした。  「『雲の上はいつも青空』って言ったのは 誰だったかなぁ?」  穏やかな声に顔を上げれば、コジさんが腕 を組みやさしい眼差しを向けている。  「どんなに辛いことが続いても状況は必ず 移り変わる。だから、これからはいいことが たくさんあると信じていまを乗り越えて。で、 またうちに来たくなったら、いつでもおいで。 いつでも待ってる」  「はいっ!」  その言葉に満面の笑みで頷くと、羽那さん が僕の顔を覗いた。  「人と違うことをあまり悲しまないでね。 人と違うからこそ見える世界がある。誰かに やさしく出来る。そのことを強みに前を向い て歩いて。柊弥君のこと遠くから見守ってる」  「ありがとうございます」  羽那さんの言葉を噛み締めると、隣に立つ はじめ君が、「んんっ」と喉を鳴らした。  「今度うち来るときは記憶失くさないよう にな。それと、俺の正体はヒミツってことで ヨロシク」  人差し指を唇にあて片目を閉じたはじめ君 に僕は破顔する。コジさんと羽那さんは顔を 見合わせ、まったくと言いたげに肩を竦めた。  視線を下げ桃々を見ると、稚気溢れる笑顔 が僕に向けられる。  「初めて会った時『ソラ』の心は真っ暗で、 何も見えなかったの。だけどもう大丈夫だね」  「うん」  「縄跳び頑張ってね。二重跳び五十回跳べ たら、次は『はやぶさ』だよ」  「わかった。向こう行っても頑張るよ」  小腰を屈め頷くと桃々が小さな拳を向ける。  僕はその拳に自分のそれを合わせると、目 を細めた。桃々と笑みを交わし隣に立つ論平 を見やると、彼は腕を組み、口をへの字に結 んでいる。僕は顔色を窺うようにして彼の前 に立つと、「あの」と声を絞り出した。  が、その声は論平の言葉に掻き消される。  「色々辛くあたったけど。オレ、別にお前 のこと嫌いじゃないから」  「えっ?」  「だからぁ、辛くあたって悪かったって言 ってんの。ごめんな!!」  胸を張ってそう言った論平はとても謝って いる風には見えなくて。でも僕は何だか嬉し くてふるふると首を振る。  「僕の方こそ、何度も助けてくれてありが とう。論平が助けてくれなかったら僕はいま ここにいないよ。だから、すごく感謝してる」
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